魔族の親衛隊
青く広がる晴れた空に突然の落雷。
「雲は少しもないのに……雷のスキルか」
「紛らわしいけどそうみたいね」
「ララバイたちは後から追ってきてくれ。Rランクスキル、超加速走駆! 疾く進め!」
俺とルシルは勇者補正のないRランクスキルの超加速走駆を発動させて雷が落ちた辺りに急行する。差は開いていくが、その後をララバイとマージュが付いてくる。
「あの辺りに何かいるはずだ!」
「うん!」
途中にすれ違う妖魔たちは後からくるララバイに任せるとして、俺たちは落雷地点へと急ぐ。
「うっ!」
「これは……」
俺たちが現場に到着すると、そこは妖魔たちの焼け焦げた姿が転がっている地獄絵だった。
草原のあちこちにも落雷の痕が残っている。
「あそこに立っているの、魔族?」
ルシルが見てもそれと判らないのでは、ルシルの配下だった魔族やその近辺の者ではなさそうだ」
「ほほう、わざわざやられに来るとは、珍しい事もあったものだ……おや? 妖魔かと思っていたら人間ではないか! こんな所に人間がいようとはなあ」
草原で一人立っていた男が俺たちを見て笑う。
「妖魔を追ってきたら人間に出くわすとか、俺は運がいい! うん、いい!」
一人うなずいている男は、嬉しそうに俺たちを見る。
「人間もいい素材が採れると聞く。そこの人間どもよ、雷に撃たれて俺に素材を提供しろ! この俺、バーガル親衛隊のマクドールになぁ!」
マクドールと名乗る男の髪が風に揺れて、尖った耳と額から伸びる一本の角が見えた。
「魔族、か」
「みたいね」
不敵な笑みをたたえた口からは牙が覗いている。
「さあ雷に焼かれよ! 雷撃弾っ!」
マクドールはSランクスキルの雷撃弾を放つ。
俺たちの頭上から激しい光が襲いかかってくる。
「ゼロ、危ない!」
「やれやれ、Rランクスキル発動、魔法障壁!」
俺は魔法障壁を展開し、雷撃弾から身を守る。
「なっ、魔法障壁はRランク! Sランクの雷撃弾を弾くだとっ!」
マクドールが驚きの声を上げた。
「普通であれば上位ランクのスキルには対抗できない、というお前の認識は正しいかもしれないな」
俺は不安と焦りに顔を歪めているマクドールに向き合う。
「だったらなぜ!」
「俺が勇者王だからだ」
「ゆ、勇者王……!?」
「そうだ。俺が使うスキルは勇者補正が働いている。それも並の勇者ではない。王として上り詰めた勇者の力が反映しているのだ。ただのスキルと思うなよ」
経験と実績によって培われた俺のスキルだ。そんじょそこらのなまくらスキルと同じに思ってもらっては困るというもの。
「マクドールと言ったか。お前、何が目的だ?」
俺はマクドールをにらみつけた。
「何が勇者王だ! 人間風情が俺たち魔族に勝てると思うなよ!」
強がりからなのか、汗をかきながらもマクドールはスキルを発動させる。
「SSランクスキル、爆雷煌ぉ!」
マクドールの手から巨大な雷が俺に向かってほとばしった。