人と妖
思念伝達を使ってルシルが妖魔たちと会話を行った。
「彼らの森、妖魔の森ね、魔族の軍団に焼かれてしまったんだって……」
俺はいくつかの可能性を考えていたが、その中でもかなり悪い部類の予想が的中した形だ。
「魔族といっても、どこの連中かは判るのか?」
「ううん、そこまでは妖魔たちも判らないみたい。でも、妖魔たちは魔族に森を焼かれて帰るところもなくなって、とにかくどこでもいいから逃げてきたんだって」
「道理でな、攻めてくるにしても散発的だし、城郭を攻めるにはそもそもの数が少ない」
俺は城壁の上で待機していた守備兵に依頼する。
「いいか、すぐにララバイ……あ、いやララバイ国王に連絡を付けてくれ。妖魔は敵ではない、少なくとも彼らに戦う意思はないと」
「は、ははっ!」
守備兵は急いで城壁から下りていった。
「ゼロ、私たちはどうしようか」
「俺たちも下に行こう。妖魔たちと話をしたい。ルシルは妖魔たちの言語をいくつか話せたよな」
「うん、魔族の言葉に近いところもあるから、地方語くらいだったら理解できるかも。思念伝達でも似たようなものだし」
「少しでも意思疎通ができれば助かる」
ルシルはうなずくと俺が階段を下りていくその後ろを付いてくる。
戦闘とならなければルシルはいてくれた方が助かるというものだ。魔王としてのルシルの妹、レイラに魔王の能力をほとんど奪われているだけに戦闘力という点ではあまり危険となる前面には出したくはなかったからだ。
「ごめんね、ゼロ」
ルシルはそんな俺の考えを感じたのか、唐突に謝ってくる。
「何がだ? 別段謝るような事はしていないだろう」
「うん、そうなんだけどね、私、角がなくなっちゃったでしょ」
レイラに能力を奪われた時に、額にあった一対の角も共になくなってしまったのだ。
「そんな事は考えていないさ。できればルシル、お前には安全なところにいて欲しいと思っただけだよ」
「ゼロ……」
ルシルは階段の途中で歩きを止めた。
「どうした?」
薄暗い階段の通路で、俺は下からルシルの顔色をうかがう。
「ううん何でもない。でもね一番安全なのはさ、ゼロと一緒にいる時だよ」
そう言いながらルシルが見せたのは、純真な少女の少し照れた笑顔だった。
「さ、さあ行くぞ。こうしている間にも無駄な戦いが起きているかもしれない」
「うん、私も頑張るよ!」
「期待している!」
俺たちは階段を駆け下りていく。
地上階に下りると、そこには既にララバイが待っていた。
ララバイの後ろにフードを被った人間がいる。
「ゼロさん、いやゼロ国王」
「臣下の前だからといって気を遣う事はないさ」
「そ、そうですね。それではゼロさん、城外に行きましょう。話は兵から聞きました」
俺はうなずいて正面口の門へと向かう。
「私の方も妖魔と意思疎通ができる人間を連れてきました」
その人はフードを外し、俺たちに顔を見せた。
「よかった、皆さんご無事で……」