力の誇示
この場の空気が一瞬凍り付く。
あぐらをかいた俺は微動だにしない。
「それは貴様が我らの味方をするという事か!」
老人の妖魔ウィロウが息巻く。その言葉一つ一つが大気を震わせるようだ。
「あながち間違ってはいないな」
「ゼロ、人間の王よ……」
森の妖精の女王カミーリアは俺の真意を見抜いているのか、諦めというか悟ったような落ち着いた表情になる。
「それはなりません。わらわたちはわらわたちでこの難局を乗り切るべく、こうまでして人間の城を滅ぼさんとしているのです。失われた同胞たちの無念を晴らすために」
「もう一度言おう。お前たちを勝たせてやる。勝ちでこの戦いを終わらせてやろうというのだ」
老人の妖魔が割り込む。
「言われずともこのまま押し切れば、あのような小城は夕刻には落とせるわい!」
俺はあぐらのまま鞘に納まった剣を腰から外して手前に置く。
「そうではない。俺はマルガリータ王国と同盟を結んだ。だから彼らを滅ぼさせる訳にはいかない。だがお前たちの話を聴けば先王の治世にも非があると感じる部分がある。そこでの提案だ。これ以上の攻撃をやめて退いてくれ」
カミーリアは落ち着いている様子だが他の妖魔たちは俺が何を言っているのか理解できていないようだ。
「お前たちがここで退けば、お前たちを戦勝国として認め、マルガリータ王国に賠償なり補償なりをさせよう。ただ破壊して終わるのではなくこれからの未来を築く手伝いもさせる。だが」
俺は周囲の妖魔たちににらみを利かせる。
「これ以上戦いを続けるというのであれば俺がお前たちを滅ぼさなくてはならない。勝者のまま手を引いてくれ」
やはりな。カミーリアは俺の意図を理解していたのだろう。諦めたような顔はそのままだった。
だが周りの妖魔たちはそうでもなかったのか、憤慨する者やいろいろ考える者がいる。
「ふざけるな人間!」
妖魔の中からひときわ頑強そうな男が現れた。岩でできた身体は岩ゴーレムのようにも見えるがこいつも変化の妖魔なのだとすると、魔法生物ではなく信仰を集めた巨岩やその類いなのかもしれない。
「お前のような奴が我らに勝ちを譲るだと!」
「そうだ。俺が来なければお前たちの思い通りに事は運んだろう。だが俺が来てしまった。縁あってマルガリータ王国と同盟を結んだとあればその信義は通さなくてはならん。お前たちが退いてくれなければ俺の剣はお前たちに向けざるを得ない」
「だからなんだ! お前一人で何ができる!」
「この戦局を覆す事ができる」
「そこまで言うのなら、この妖魔大四将グランロック様の拳を受けてみろっ!」
岩人間が繰り出す拳はそれだけで牛程の大きさがある。それが俺の頭上から勢いよく振り下ろされた。
俺の頭をめがけて拳が叩き込まれ、俺を中心とした地面がひび割れて陥没する。
「どうだ、この拳を受けて破壊されない物は……なっ!」
「なるほど物理的な攻撃と言うより、岩そのものだな」
拳の下で俺が答える。
「SSSランクスキル円の聖櫃だ。お前たちの技術体系が異なろうとも物体がこの防壁を通る事はできん。そして……SSランクスキル豪炎の爆撃、発動。この邪魔な岩石を粉砕しろ」
俺は静かにスキルを発動させ、巨大な爆発が起きる。
岩人間が叫び声を上げてのたうち回った。
「ほう腕一本で済んだか。思いのほか頑丈だな」
殴ってきた側の腕が吹き飛んで岩の破片となって辺りに散らばる。
円の聖櫃で守られている俺にはその破片すら跳ね返されていた。