双頭の蛇の相当な対価
俺たちはコロホニーの後を付いていく。検問所の建物から出て裏手に回るとかなり大きな天幕が張られていた。
「気付いたかルシル」
「ええ。あのおじいさん、ゼロのことを話してからずっと緊張を解いていないわね。それに背筋も伸びて、本当に老人なのかしら」
俺の持った違和感がルシルのそれと同じだった。
「この中だの」
聞こえているのかそうでないのか、コロホニーは特に反応を見せるでもなく天幕の中に入っていく。
「これは……」
薄暗い天幕の中にこれまた大きな檻が置かれていた。そして檻の中にはとぐろを巻いた蛇。身体の太さが男性の腰回り程もある。
「でっか……」
「太いですね」
女性陣の素直な感想だ。
「じいさん、これって……」
「そうだの、あんただけであのアンフィスバエナを仕留めて見せたら、通行証の代わりとするからの」
やっぱりか。
「ねえおじいさん、私たち力ずくで国境を突破してもいいんだけどな~」
「ルシルちゃん、それはちょっと……」
「でもそうでしょシルヴィアさん。だってここにはこのおじいさんしかいないみたいだし」
確かに人の気配ということならルシルの言う通りだ。ここにいる人間はコロホニーだけのようだった。
「でも、アンフィスバエナと言いましたのよねこの蛇」
「そうだの。だが、それ以上言ってはならんの」
「そうですか」
シルヴィアは毒々しい色鮮やかな縞模様の蛇の姿をまじまじと見つめている。
「どうしたのお姉ちゃん」
包帯で目隠しをしているカインは蛇の姿を見ることができないが、蛇の鱗がこすれる音や舌を出す音が不安にさせるのだろう。
「ううん。ゼロさんご判断はお任せしてもよろしいでしょうか」
「いいだろう。じいさん、俺がこの中で蛇を倒せばいいんだな。殺しても構わないか?」
「ふむ、できるものならの」
コロホニーは檻の扉を少しだけ開ける。俺が入れるだけの隙間だ。
「なら、通行証はいただきだな」
俺は一人で檻の中に入る。
勇気の契約者は発動できない。
ここ数回の戦闘で判ったのは、簡単に言えば臣下が窮地に陥らないと発動できないスキルということだ。俺だけが困っていても発動はしなかったし、臣下によって発動効果が微妙に異なる所があった。
「今は発動できないから俺の基礎能力で戦うしかないが、それにしてもでかい蛇だ」
俺が檻に入るやいなやアンフィスバエナが鎌首をもたげてくる。
大口を開けて俺の頭を狙って飛びかかってきた。怪しく光る牙。真っ直ぐ飛んできた頭を躱してその後頭部へ手刀を叩き付けた。
続いて檻の端ぎりぎりまで使って横へ走って距離を取る。
「おっと」
アンフィスバエナは横滑りで俺の後を追う。
「そんな動きができるのか、でも頭はがら空きだ」
もう一撃手刀を後頭部へ入れようとした時、尻尾が俺の足にぶつかってきた。
その瞬間にチクリと痛む足。
「なんだと……」
尻尾かと思っていたがその場所にももう一つの頭があって俺の足に噛みついていたのだった。