成果は国のもの
王の口から出てきた解雇の一言。
俺は確かに王国に仕える者として魔王討伐をした。だから雇用関係にあるといえばあるのだが。
ステンドグラスから入る光にさえ、悪意が感じられるような気持ちになる。
王の姿が暗い影のように見えるのは、逆光のせいなのか俺の気持ちのせいなのか。
「お待ちください、俺、いや私は陛下の命を受け魔王討伐に赴き、そして魔王を倒したのに解雇とは」
王は長いひげをしごく。玉座の背もたれに寄りかかり大きなため息をつく。
「魔王を倒した功績は認めておる。おかげで王国は救われ、平和になった」
「平和になったのであれば、なぜ……」
「そこよそこ。魔王がおったからこそ、そなたのような戦える者を必要としておったのだが、魔王が世界から失せて三年、世の中も平和になった今、そなたのようなただ強いだけの勇者は不要なのだよ」
「ふ、不要……」
「魔物もいなくなり世界は新しい時代を迎えておるのだ。この三年、そなたは何をしておったのだ? 魔王を倒した後、何をしておったのだ?」
「それは、私が……」
「まあよい。何はともあれ魔王はいなくなった。魔物の襲撃もなくなった。平和な世界に勇者なぞ何の役に立つ」
言いたい事は言い切ったのか、王の興味は既に他へ移った様子で玉座へ座り直した。
「ですが解雇というのはあまりにも。昔のまま衛士としてお抱えいただく事は」
「くどい! 衛兵の中に勇者がいたらどうなる? 面倒事になるのは目に見えておるわ」
王の気持ちは揺るがないのか。それどころか、謁見前から解雇しようとしていたというわけだ。
「であれば陛下、魔王討伐の報償がこれだけとは……」
「これだから下賤の者は。大臣、後は任せる」
「かしこまりました」
王の言葉にうやうやしく頭を下げた大臣が俺の方に向き直る。
「平民ゼロよ、既に渡しておる金がそなたのそれまでの衛士としての給与と魔王討伐の報償である。衛士の規定で支払われる最大額を用意しておるのだ、ありがたく思え。ただ、必要な経費や討伐から帰還までの三年間は稼働なしとして無給となる分は差し引いておるからな」
「なっ、衛士の規定って何ですか」
大臣は俺の言葉を予期していたのか、懐から紙を取り出して俺に見せる。
「これこの通り、契約書にも給与の規定についてこのように書かれておる」
そこには細かな文字でびっしりと規定が書かれていて、最後には俺の名前が書かれていた。
「そなたの署名もある。これはそなたが衛士となる際に書き記した物で相違あるまい?」
確かにその通りだ。俺は衛士として入隊する時に署名をした。それは間違いない。
「野良犬だろうが魔王だろうが、王国の脅威を排除した際に得られる報奨金は規定にある通りだ。その中でも最大級の褒美を与えておるのだ。異論はあるまい?」
大臣が笑いを噛み殺しながら説明する。その後ろで王も口元を緩ませながらこのやりとりを眺めていた。
「さて、平民ゼロよ、荷馬車の品々はどこじゃな?」
「え、宮殿の外の車置きに停めておりますが、それが」
大臣が脇にいる兵士に指示をする。
「荷馬車を宝物庫へ運べ」
「はっ」
指示された兵が謁見の間から出て行く。
「どういうことですか、大臣」
「どうもこうも、今は平民とはいえ魔王を討伐した時そなたは王国に仕える兵士であったわけだ。王国の援助なくして魔王討伐は果たしえなんだ。そうであろう? しからばこたびの討伐で得られた金品はそなたが仕えた王国の物。国庫へ納めるが道理じゃ」
「あ、いや、あの……」
俺の慌てる顔を見て大臣が不敵な笑みを浮かべていた。
そんなこと言われても、働いている側からしたら冗談じゃないですよね。でも権力者には逆らえないのか……。
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