あぐらの提案
森の妖精の女王であるカミーリアが厳しい顔のまま俺に近付いてくる。
「人間、そなたの名は?」
威厳のある声は若い女性の見た目とは違う、深遠にある根源的なものを感じさせた。
なるほど、妖魔たちをまとめる力とはこのようなものか。
「俺はゼロ・レイヌール。治める地はないが勇者王として臣下を持つ身だ、森の女王よ」
「そうかゼロ。わらわはカミーリア。深き森の大同盟を導く者である」
「深き森の大同盟?」
俺の問いに先程割り込んできた威勢のいい老人の姿をした妖魔が答える。
「深き森の大同盟はこの地より北にある大森林地帯であるぞ。人間どもの国とは広さも歴史も比べものにならぬ程の規模を持つのだぞ!」
生態系も異なるが、この狭い城郭の中で暮らす人間たちとは確かに規模が段違いの世界なのだろう。
「それを我らの同胞が動けぬ事を逆手に取りおって! 卑怯極まりない!」
「落ち着きなさいウィロウ」
静かながらも威厳を持った声に老人の姿をした妖魔が言葉を止める。
「も、申し訳ございませぬ、カミーリア様」
小さくなる妖魔は置いておいて俺はカミーリアと向き合う。
「マルガリータ王国は第三王子が王位を継承して現在新しい体制で臨もうとしている。そのため極力打って出て互いに損耗するよりはと、防備に徹している状態だ」
俺の言葉にまた老人の妖魔が割り込んでくる。
「王の頭がすげ変わったところで失った同胞は戻ってこないのだぞ!」
「ウィロウ!」
「はっ、ですが……」
「よいのです、使者の役目を果たさせてやりましょう」
「はい……」
俺は一つ咳払いをする。
「よいかな? では続けるが、先王と異なり今の王は周辺諸国との共存共栄を望んでいる」
「共存、ですか」
「ああ。一方的な武力での侵攻、鎮圧ではなく、対話での繁栄を模索しているということだ」
「ですが今はその国自体も滅亡寸前ですよね、わらわたちの手によって」
「そこは否定しない。だから俺が来た」
「と言いますと? 他国の王が仲裁に入るという事ですか」
「それもあるが、もうこれ以上命を散らしたくないのだ」
「それは無条件降伏と捉えてもよろしいのですね」
「そうではない」
俺はその場に座ってあぐらをかく。
「無礼だぞ、人間! それとも城の王だけではなく貴様の首も差し出すという事か!」
「それはない。俺は戦う意思がない事を示そうとしただけだ。すぐに立ち上がれないように座ったまで。無礼となった点については謝罪しよう」
俺はあぐらのまま頭を下げた。
「それで足りると申すか! 無礼者め、今すぐそのそっ首たたき落としてやろうか!」
怒鳴るウィロウをカミーリアが手で制す。
「いいでしょう人間の王。そこまでの覚悟があっての事であれば聴くだけは聴きましょう」
カミーリアの言葉に俺は自分の考えを口にする。
「俺が来たその理由は簡単だ。お前たちの勝ちでこの戦いを終わらせないか、という提案をしに来た」