妖魔のカリスマ
妖魔の集団の中央には、騎士たちに守られた一人の女性が立っていた。
緑色がかった髪を長く伸ばし枝や葉で身体を包んだ半裸の姿。見た目は俺よりも少し年上のようにも見えるが。
「まさか森の妖精か。だとすれば見た目と違って数百年は生きていてもおかしくはないだろうがな」
長い年数を経た樹木に宿る精霊だ。
緑色の女性は俺の姿を見てゆっくりと口を開く。
「わらわの素性を見知っておるのか。人間というものも侮れぬな」
「それはどうも。なあ森の妖精の女王よ、お前がこの妖魔の集団を束ねる者と見るが間違いはないか?」
「わらわは道標に過ぎぬ身、束ねるという事はないが」
おっとりとした口調の中に芯の強さを感じる。
「だとすればその道標に尋ねよう。あの城塞への攻撃をやめてはもらえないだろうか。他に行く道を示してもらえないだろうか。これ以上命を失う事は双方にとっても利益より損害の方が大きいと思うがどうだろう」
「ふむ、それはできぬな」
「即答か、それは残念だ」
俺は覚醒剣グラディエイトを構え直す。
森の妖精を囲むようにして妖魔たちが俺の攻撃に備える。
「まあそう急く事もあるまい。わらわはこの戦を望んでいた訳ではないのだ」
「ほう」
「周りの者が怯える。それをしまってはくれまいか」
森の妖精が懇願するような目で俺を見た。
「いいだろう」
俺は森の妖精の求めに従い剣を納める。
他では激しい戦闘が行われているさなかに、俺も変な事をすると思った。
「可能性はある、という事か?」
俺の問いに森の妖精は静かにうなずく。
「いけませんカミーリア様!」
横から長いひげを蓄えた老人の妖魔が森の妖精を止める。
「そうやって何度人間に謀られた事か! その度に我らは伐られの土地は焼かれたのですぞ!」
「ウィロウ、ですが……」
「おい人間! 元々その地を離れる事のできぬ我らに対しそちらから戦を仕掛けてきたのだぞ! それを自分たちが不利になれば許しを請うなど笑止! その仕打ちを受けた上でこの地より消滅するがいい!」
「俺は別にこの国の者が過去に行った事には加担していないのだが……」
俺が話している途中で風の刃が襲ってくる。
「森の妖精の風スキルか!」
「我らの能力はお前たちの技術体系とは異なるぞ! この悠久の力を思い知るがいい!」
ウィロウと呼ばれた老人の妖魔が手を振ると、その動きに合わせて風が巻き起こる。
舞い散る木の葉がその風に触れ、真っ二つに切り裂かれた。
「スキルとは……違う!」
俺の腕や顔に細かい傷ができる。
「なんだこれは、この能力は……!」
俺は腕を身体の前で交差させて風を防ごうとした。
「おやめなさい!」
凜とした声がして風が止んだ。
俺が顔を上げると、そこには厳しい顔をした森の妖精の女王、カミーリアが見えた。