食事回数
俺の左足にまとわりつくゲル状の粘着物。それが俺の皮膚を溶かし火傷のような痛みを与える。
「熱だと思ったが、勇者専用SSSスキルの温度変化無効が駄目だとすると……」
粘液の付着した防具が泡立ち嫌な臭いを出す。
「酸か!」
温度変化無効では酸には抵抗できない。完全毒耐性も同じだ。
「流石の俺も酸耐性は持っていないからな……」
足を振って粘着物を剥がそうとするがしっかりとくっついていて取れそうもない。
「ご名答です、フジュジュ……」
粘着物のどこからか声が聞こえた。
「勇者と聞いてどのようないかつい奴が来るかと思いましたが、フジュジュ、まだガキじゃありませんか」
「ガキかもしれないが俺が倒してきた魔物の数はお前よりも多いと思うがな!」
俺は足を振ったり地面を強く蹴ったりして粘着物をどうにか振り払おうとするがうまくいかない。
「勇者様は今まで摂取した食事の回数を覚えておいでですかな?」
「何をこんな時に」
粘着物が形になって人間の姿を形成する。
不定形生物だから好きな造形ができるのだろうが、俺の目の前にいるのは俺よりも背の高い全裸の女性。
透明感のある身体は水のようであり宝石のようでもあるが、中には以前に取り込んだであろう動物の骨が溶けずに漂っていた。
「私はスライム人間、食事を吸収した回数は勇者様で丁度二万回目なんですよ!」
「生まれてからずっと数えていたのかおまえは!」
「それがどうしました、自分の事は自分が一番よく知っているんですよ、フジュジュ」
「その表現、使い方間違っているだろ!」
「何とでも言いなさい、栄えある二万回目の食料として私の中に取り込んであげますから!」
スライム人間が俺に覆い被さってくる。
身体が広げた投網のように大きく伸ばして俺を包み込もうとしていた。
「円の聖櫃だと足をつかまれているのだから既に範囲内へ入られてしまって意味がないか。だとすれば……Sランクスキル発動っ! 凍晶柱の撃弾!」
俺の手から冷気がほとばしり巨大な氷の柱が出現する。
「な、なんですと!」
スライム人間も所詮はゼリーの塊。極低温が必要になるがそれでも氷で閉じ込めてしまってからじわじわと凍らせていけばいい。
「つ、つめた……凍る……」
本体を氷の柱に閉じ込められ、その柱からでている手も冷気で凍り付き始めた。
「固くなってしまえば破壊する事も楽になる、な!」
俺は剣で足首に絡みつくスライムの触手を叩き折る。多少は粘度があるもののそれでも凍ったスライムの手は粉々に砕け散った。
「ふぅ、足を切り落とさずに済んでよかった」
氷の中でもがこうとあがいているスライム人間をにらむと、俺は氷ごと氷の柱ごと粉々に打ち砕いた。
「多少は驚いたがそれでもこの程度か」
俺は左足首に応急手当を施すと、スライム人間の身体を乗り越えてその先に進む。
そこには護衛の妖魔に守られている緑色がかった女性が立っていた。