レイヌール勇王国同盟
ララバイが王位を譲り渡した義父を部屋に置いたまま長い廊下を歩く。
「王子! 戻られたのですか!」
顔に刀傷のある壮年の男がララバイを呼び止める。
身に着けている鎧は傷や返り血で汚れていた。
「レッドヒッキー将軍か! 戦況はどうだ」
「これより陛下へ報告申し上げようと思い宮殿まで戻ってまいりましたが、正直申して我が軍の劣勢は覆し難く、城門を突破されるのも時間の問題かと……」
悔しさと無念さで唇を噛みしめる将軍。
もうすぐ城門が突破される、か。念のため俺は確認を行う。
「とすれば、まだ城門は機能している、侵入を防いでいるという事だな!」
「な、王子、この者は」
「よい私の友人だ。彼の質問に答えろレッドヒッキー将軍」
「は、はっ、そこの御仁のおっしゃる通りでございます。まだ突破はされておりません!」
報告をしながらもまだ希望がつながっている事に気付いた将軍は、目に光が戻ってきたようにも思えた。
俺はまだ諦めていない将軍の姿を見て、ララバイに提案する。
「俺もいろいろあって臣下を持つ王でもある」
ルシルが刺客に襲われた時にその場しのぎで王の契約をしたものだが、その後も魔族の軍団を配下に治めたりと、国王らしい事は全然していないものの一応は王を名乗っていたりもするのだ。
「ここは国同士の同盟として助力をしてもよいが、どうだろうか」
俺の問いにララバイがうなずく。
「よろしい、それではマルガリータ王国とゼロ陛下、あなたの国との軍事同盟を締結しよう!」
そこでララバイが少し困った顔をする。
「どうした、ララバイ」
「いえゼロさん、ゼロさんの国は何という国名なのでしょうか。ゼロさんが王だという事を今伺いましたが、そうなると国は何と……」
「あ……」
そう言えば王にはなったが国を持たない王、領土などは無かったな。拠点として作った場所も襲撃を受けて破壊されてしまったし、あとはゼロ温泉とかか……。
「ふぅむ、考えてみれば流浪の王であったからな、国などというものは作っていなかったな……」
「え、別にゼロの名前でいいんじゃない? レイヌール勇王国、勇者王ゼロなんていうので」
ルシルが思いつきで口にする。
「いえ流石にそのようなものをここで急に決めるというのも、ねえゼロさん?」
ララバイが慌てて間に入ろうとした。
「それでいいぞ、俺は別にこだわりを持ったりしないし、別にいいんじゃないか」
「そんな、国名は大切なものですよ! これからお子様ができて王位を継がれる事を考えますと、もっと慎重にですね……」
「王は王でも何も子供に継がせる必要もない。俺一代だけでもいいくらいだ。それでも臣下を見捨てる訳にはいかないだろうから、そうしたらそれなりに優秀な者がある程度俺の意を汲んで国を営んでくれればいい。それに仕えるに値しない王であれば臣下である事を強制はしないからな」
「そ、そこまでおっしゃるのであれば、それではマルガリータ国王、ノワール・ララバイ・マルグリットと……」
ララバイの言葉を俺が続ける。
「レイヌール勇王国、勇者王ゼロ・レイヌールはここに盟約を交わすものとする!」
俺は剣を掲げ、その剣にララバイが自分の剣を重ねた。
「これで両国は共に戦うものとなった!」
ララバイが高らかに宣言する。
これで俺も力を貸せるというものだ。
「王子、そ、その王冠は……」
将軍がララバイの一連の行動と頭に乗せている冠を見て驚く。
「これは義父上が危急存亡の秋である今、私に国を委ねられたその証ぞ!」
「なんとっ!」
「私に仕えてくれるか、先王に捧げたと同じ忠誠を」
将軍は右手の握りこぶしを時分の左胸に当てる。
「はっ、陛下! 忠誠を捧げまする!」
将軍の身体に活力がみなぎったように見えた。
ララバイに仕える事で、SSランクのスキル、騎士の契約者が発動したのだろう。
「これは期待できそうだな」
俺のつぶやきはこの場にいる全員に勇気を与えた。