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マルガリータ第三王子

 豪華な装飾は小さいながらも威勢を誇ろうとしたマルガリータ王国の姿を感じさせる。

 俺たちは尖塔を駆け下りて王宮の中をララバイの案内で進んでいく。


「お、王子!」


 途中で騎士がララバイの姿を見て驚く。


「今は詳しい説明をしている余裕がない。義父ちち上のおわす指揮所はこの先でいいな」


 ララバイは近衛騎士を捕まえて問いただす。


「国を捨てた王子をこの先に行かせる訳には……」

「という事はこの先なのだな」


 ララバイの問いかけに誘導されたのか騎士は解っていて答えたのかは判らないが。

 騎士の返事を聞かず制止を振り切って宮殿の奥へと進んでいく。俺たちはその後を付いていくだけだ。


「ララバイ、この城郭もかなり被害を被っているようだな」


 俺が話している間にも爆発音や叫び声、振動がひっきりなしに続いている。


「ここは平城ひらじろなので防衛には向かない地形なのです。平時には交通も便利で流通や交易としての中継点にはなりますのでそれなりに栄えるのでしょうが、マルガリータ王国のような弱小の国家にはある程度の防衛力があってこそ生き延びられるというもの。軍事力の無い商業都市など野盗の前の宝石に過ぎません」

「確かに襲われても撃退できるだけの戦力は必要だろう。それに防壁を築いたところで籠城戦は厳しいな。そもそも籠城は増援を期待しての戦術、自分たちだけでは勝ち目がない戦いだろうが」


 俺たちは豪華な中でもさらに華美な装飾が施された扉の前に立つ。


「指揮所というよりは謁見の間なのか? それとも玉座の間か」


 ムサボール王国でも同じような感覚はあった。

 どうも権勢を張るような王は自分以外の物も飾りたがるらしい。まるで中身のなさをごまかすような、他の物で埋めようとするかのような。


「こうやって訪れた者を威圧するかのような装飾の数々、下卑た心根が透けて見えるな」

「そう言わないでくださいよゼロさん。連綿と続く王家という威光を表現する事も、それを引き継いだ王家の務めなのでしょうから」

「権威に尻尾を振る輩などつまらん。己に自信が無いのなら一介の小市民として暮らせばよいものを、小者が権力を握るとろくな事がない」

「ははっ、手厳しいですね」


 ララバイは苦笑しながらも荘厳な扉を開ける。


「何者っ! 返答次第では容赦せぬぞ!」


 部屋の中にいた騎士たちが抜き身の剣を構えていた。四、五十人、小隊程の人数がいるだろうか。


義父ちち上、ここにこれだけの戦力を無駄に集めるとは嘆かわしい。それ程御身が大切ですか!」


 ララバイは騎士たちの恫喝どうかつにたじろぐ様子もなく呼びかけた。

 呼びかけられて奥に座る老人が立ち上がる。その隣にはまだ幼さを残す少女が着慣れない鎧に身を包んでいた。


「ノワール、今更何をしに戻った!」


 低く威厳を備えた声が部屋中に響き渡る。


「先代の子を不憫ふびんと思い養子として向かえてやったその恩義を仇で返しおって! どの面下げてここにおるのだ!」

義父ちち上……」


 恐らく王の隣にいる少女がジェシカ・マルグリット、ララバイの次の王位継承者なのだろう。

 この娘が王の血を引く娘とすれば、養子のララバイへの風当たりの強さも理解できる。


義父ちち上、もうマルガリータ王国は終わりです。妖魔をいたずらに攻撃した結果がこの反撃ですよ。お判りになりませんか? 友好的な解決法もあったでしょうに……」

「この腰抜けがっ! 仲良しこよしで国が残せるか! 危険を事前に排除する事こそが肝要!」

「妖魔であっても彼らは彼らの生き方や生活があるのですぞ! それをないがしろにしてただ排除、殲滅を繰り返したがために、このような恨みを買う事になったとなぜお気付きにならないのですか!」


 俺はすごい剣幕で食ってかかるララバイの肩を叩く。


「お前も覚悟を決めるのだな、ララバイ。いや、ノワール・マルグリット」

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