防衛ライン
「魔力反応……まあ、当然の事だろうな」
遠くでウィブから降りて徒歩で町に入るという選択肢もあっただろうが、近付いてみると妖魔の軍団とやらが町を取り囲もうとしているところが見えた。
妖魔は不定形生物やキメラといった魔法生物が多くいるようだ。
「妖魔には高位の魔術師がいる可能性が高い。いいなララバイもう後には引けないぞ」
「ゼロ、妖魔と城の両方から魔力弾が来るよ!」
ルシルの警告が俺たちの緊張をさらに高める。
妖魔たちにもマルガリータ王国の者たちにも、ワイバーンは所属不明の不審な飛行物体なのだ。
「味方ではない航空戦力が自分の領空を飛んでいたらそれは攻撃してくるよな。ましてや今は臨戦態勢なのだろうから」
ウィブは飛んでくる魔力弾を見事に避けて飛ぶ。
俺も魔法障壁を展開して防御を厚くする。
「勇者よう、あの尖塔が儂の行けるせいぜいのところだのう」
激しい攻撃の中、城郭の端にそそり立つ尖塔が近付いてきた。
「よしウィブあの出窓を狙ってくれ! 前方に守りの盾を展開するっ!」
「承知した!」
ウィブは急降下して尖塔の大きめな出窓に向かう。俺は魔法障壁をウィブの前に再展開する。
それを見た訳ではないだろうが城郭に近付くにつれて城からの攻撃が激しさを増す。
「しまっ!」
前方に守りを固めていただけに後背の防御が薄くなっていた。ある程度の威力なら対処できるのだが、これは……。
「ゼロ、巨大な炎の塊が!」
「くそっ、妖魔からもか! 軌道が直前になって狙われやすくなったか!」
背後にまで防壁を展開する余裕がない。
ウィブの背でマージュが立ち上がる。
「危ないぞ!」
「ここは私が。精霊の飛翔!」
マージュがスキルを発動させるとその身体が宙に浮き始めた。
「滞空魔法のスキルか!」
精霊の飛翔はRランクのスキルだ、その場から身体を浮かせる事がせいぜいのはず。
「でもどうするの……まさか!」
ルシルの叫びにマージュは小さくなずくと、大火球の前に立ちふさがる。
「Sランクスキル発動! 風の乱流!」
マージュは炎の前に竜巻を発生させた。
「だがあれでは炎を吹き消すことは難しいぞ! できて直撃を避けられるくらい……」
俺の制止しようとする言葉にウィブが重ねる。
「勇者、突っ込むぞ!」
ウィブが尖塔に身体ごと突撃する。外壁が崩れ大きな穴ができ砕けたレンガが下へ落ちていく。
「マージュ!」
ララバイの悲痛な叫びと瓦礫の崩れる音が重なる。
背後で爆発の轟音がして、直後に爆風が俺たちを尖塔の中に押し込めた。
「くっ……!」
背後の空間は魔力弾が飛び交い、王国軍と妖魔たちの戦闘に移っていった。
俺たちを狙うような攻撃はなさそうに思える。
「非情かもしれないが俺たちは国王のいる場所を探す! ララバイ、籠城戦で国王がいそうな所に心当たりは!?」
「こちらへ! まずは塔を降りましょう!」
ララバイは血がにじむまで唇を噛みしめながら階段を降りていく。
尖塔の外壁の内側には下へ向かう階段が螺旋状に配置されていた。俺たちはその螺旋階段を急いで駆け下りる。
「マージュには……奇跡が起きてほしいものだ!」
マージュに助けられた形になった俺たちは、彼女が生き延びていてくれることを願わずにはいられなかった。