マルガリータ王国
俺はヴォルカン火山を後にする。
「ひとまずルシルの魔力暴発を防ぐ手立ては見つけられたからな、来た意味はあったという事だが」
ルシルの魔王としての能力が奪われてから体内で生成される魔力を消費できなくなり、それでも増大する魔力をどうにか放出するために魔晶石を探しに来たのだが、減魔の黒真珠という魔法の道具を手に入れられたから魔王の魔力問題はどうにかなったと思う。
「それにしても王子が吟遊詩人とはな」
ワイバーンのウィブに乗るのは、俺とルシルの他に、マルガリータ王国第三王子で吟遊詩人に身をやつしていたララバイと、魔法使いの少女マージュだ。
元勇者のユーシュたちは応急処置を施した天馬騎士の生き残りたちと共に山のふもとに置いてきた。死んでいない天馬も数頭いたようだからそれがいればあの場所からの移動もできるだろう。
「まさかこのような形で帰国する事になるとは思ってもいませんでした。一生戻らないつもりで国を出たものですから」
ララバイは緑がかった長い髪をなびかせてウィブの背にしがみついていた。
「それにしてもマルガリータ王国なんて聞いた事なかったが、どういうところなのだ?」
「あー、ゼロは知らないよね。私がいた頃に辺境で小競り合いがあったりしたんだけど、場所としてはムサボール王国と反対の位置にあった国だったから」
「へえ」
「厳しい山脈にさえぎられて人も文化も交流がなかったのよ。まあそれは私たちが大きな勢力を広げていたから、人間同士の接触なんてほとんどなかったみたいだけどね」
「そうか、だから地図にもまったく書かれていなかったんだな」
地理的には俺の所属していたムサボール王国の遙か西方に位置する国らしい。
「それ程大きな国ではありませんし、魔族と妖魔に囲まれた辺境の地です。土地も肥沃とは言えず常に外部勢力からの圧力に怯える毎日でした」
ララバイの言葉にマージュも同意する。
「ですから国の兵だけでは戦力が足りず、多少乱暴でも傭兵や冒険者を勇者として証を与え妖魔討伐などを行っていたのです」
「国からの報酬はありませんでしたが、依頼された内容に沿っていれば討伐時の私掠も認めるとして勇者の中には妖魔を倒して財を築いた者もいるくらいです」
「それでか、無謀なレッドドラゴン退治なんていう暴挙に出たのは」
ユーシュがレッドドラゴンの財宝を狙っていたという事自体は別に構わないのだが、それにしても力量を測り損ねたというか自分の力を過信していたというか。
「勝ち目はなかったと思うが、どうだそのところ」
「正直私はそれでもいいと思いました。マージュには悪いと思いますが」
そう口にしながらもララバイに悪びれる様子はなかった。
「わ、私も覚悟はしていましたし、あれくらいの敵にならないともうこの近くではほとんど敵も刈り尽くしていましたから」
「そろそろ私たちも強力な敵と戦えると思っていましたからね」
「だが卵を持ったドラゴンは凶暴だからな、命があるだけ幸運だと思う事だな」
「ええ、まったく……あ、そろそろ見えてきますよ」
ララバイが示す先に小さい丘へ築かれた城郭が見えてきた。