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国境の通行手形の適用範囲

 国境へ向かう街道。周りは鬱蒼とした森だ。街道とは言ってもかろうじて荷馬車が通れる程度の整備がされているくらいで、ほとんど草の中を進んでいるような感じだ。


「そう言えばね、この間夜中にふと目が覚めたらさ、おっきな猫? かなあ。なんかね、ちょっと離れたところでずっとこっちを見ていたの」


 ただ歩いているのも退屈なのかルシルが話しかけてきた。


「猫?」

「うーん、暗くてよくわからなかったけど、そうじゃないかなー」

「そっか。流石に辺境も近いと野生の大型動物が出てくるからな、警戒するに越した事はないが」

「そうだねえ。ちょこんと座ってて、可愛かったなあ」


 そんなやりとりをしていると、シルヴィアが声をかけてきた。


「見えてきましたよ」


 シルヴィアが森の中の街道の先を指差す。

 少しだけひらけた場所に監視塔や柵が見えた。


「柵は王国を全て囲っている訳ではないからな、冒険の旅をしていた頃は山越えですり抜けたものだが荷馬車を通すなら街道を使うしかないもんな」

「すみません、荷物になってしまって」

「いや、そういうつもりじゃないんだ。かえって俺たちが邪魔になったりしないかと思ってさ。国境ともなれば、手配書が回っていたとしても不思議ではないし」


 これだけ国内で騒ぎを起こしてすんなり国境を超えられるとも思えない。シルヴィアたちはまだ手配書にはなっていない可能性もあるだろうが。


 だんだんと国境の門とその両脇に建つ監視塔が近づいてきた。監視塔は煉瓦造りだが門は木の板でできた簡易的な物だ。


「そこの商人の一団、ちょいと待ってなせえ」


 監視塔から声がする。俺たちは一旦門の前で立ち止まった。


「今門を開けるんでの、よいしょっと」


 門番らしき老人が監視塔から降りてきて門の鍵を外す。


「はいよ、どうぞー」


 両開きの門が内側に開いた。これで荷馬車も通れる。


「思ったより何もなかったね、ゼロ」

「検問はこれからだ、気を抜くなよ」


 門番の老人が近づいてきたので、シルヴィアが用意していた通行手形を渡す。


「シルヴィア商会の方々だの、それでは奥の検問所へどうぞ。えっと、荷馬車はあちらで停めておいての」


 老人が案内をしてくれる。

 シルヴィアが荷馬車を停車場に停め、カインの手を引きながら戻ってきた。


「四人さんだの、だら、こちらにどうぞー」


 検問所へ行くと簡易的なカウンターの前に通される。


「ちょいと待っててな」


 老人はそう言いながらカウンターの向こうへ移動する。


「はい、お待たせのー」

「え、おじいさん一人?」

「ほだよー。ワシが検問官で見張りで門番のコロホニーだの。ほんじゃ、検問しようかのー」


 コロホニーが通行手形を確認し、手元の書類を見ながらメモらしきものを取る。


「王国から出るのかの、ほうかー。外はどこの領土でもないからの、魔王がいなくなったらしいが未だに魔獣やら何やらが出るがの、平気かの?」


「ええ、その程度どうにかできなければ国々を巡る交易商はできませんわよ、コロホニーさん」

「ほうかー。めんこい嬢ちゃんたちばかりで、そこの兄ちゃんも大変やろのー」


 ルシルはコロホニーの真似をして嬉しそうに俺を見る。


「めんこい嬢ちゃんたちばかりで、そこの兄ちゃんも大変やろの~」

「いえそんな事は、痛っ」


 ルシルが俺の臑を蹴った。なぜだ。


「ほうかのう」


 俺たちのやりとりを見て老人の目が一瞬鋭く光ったように思えた。同時に耳の奥でかすかな痛みが感じられる。


「だら、それを証明してもらおうかの、勇者ゼロさんや」


 場の空気が張り詰めたものになる。やはり俺は手配書が回っていたか。


「あんた、まさか」

「まあそう怖い顔をせんとついてきなされや。ほっほっほ」


 コロホニーは先ほどと変わらないのんびりとした様子に戻った。

 理由は判らないが俺たちをどこかへ連れて行きたいらしい。


「ひとまず付いて行こうか」


 俺の問いにルシルたちがうなずく。

 俺たちはコロホニーの後に続いて検問所を出た。

【後書きコーナー】

 コロホニー=ロジン≒老人

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