第三の目
マルガリータ王国に与えられた称号として勇者を名乗っていたユーシュ。その勇者の一行にいた吟遊詩人のララバイが、そのマルガリータ王国の第三王子だという。
「まっ、そんな! 応援しかできない吟遊詩人だったし、戦闘じゃあまり……だったらいろいろ……ちっ!」
ユーシュが独り言の後に舌打ちをする。
「だからと言って私が王家に戻るつもりはないぞ」
ララバイ、ここは第三王子のノワール・マルグリットと呼ぶべきか。俺にはどちらでもいいのだが。
「それは陛下も承知しております。ですが、次の王位継承権は妹君のジェシカ様……」
なるほどな。
「そう言う事か。次の王位継承者がいて、たとえ放逐したとはいえこの第三王子が生きている事そのものが邪魔になったという訳だな。これだから王家の権力争いというものは反吐が出る」
「やっぱりそうなのね、ゼロ」
「ルシルもそう思うか」
「ええ」
理解していなさそうなユーシュが割り込んでくる。
「どういうことなんだ、それって……」
こんな奴をよく勇者として認めていたものだ。
「いいか、例えばその妹姫が王位を継いだとする。それは別段構わんが、それよりも王位継承権が上位のもの、つまりこの第三王子のノワールが生きていたとすると、妹姫の即位に不満を持つ貴族どもがノワールを旗頭に反乱する可能性がある訳だ」
「私にはそのようなつもりは毛頭無いのですが、王家も捨てましたし……ですが」
「ああ、これは本人の気持ちがどうこうという事ではない。その肩書きがまだ使えるという事こそが重要なのだよ」
ユーシュは段々と理解できた様子でうなずく。
「なるほど、そもそも生きている事が邪魔になると。それにいつ考えが変わるかもしれない、それなら亡き者にしてしまえば……」
「そうだ。この騎士たちは国王の直属という話だとすると、国王自体が妹姫に王位を継がせたいらしいな。そう考えれば妖魔との戦闘というのも妙な気がするからな」
「それって」
「ああ、前線に兄王子二人も投入するというのは何か裏を感じるな。国王も含めた総力戦という事でもなければそのような危険は冒すまい。さて」
王国内の暗部を見たような気がする。それに当てられて周りの空気も重たいものになった。
俺は息も絶え絶えな騎士に問いかける。
「その妹姫は王位を継ぐ事を拒否しているのではないかな?」
俺の言葉に騎士は一瞬虚を突かれたような顔を見せ、目をそらす。
どうやら図星だったようだな。
「いいだろう、もう休め。Sランク重篤治癒発動、傷口を塞ぎ、かの者に安息を……」
斬り落とされた足は生えてこないが、傷口は止まり出血も治まった。後は生き残れるかどうかはこいつの運と体力次第だ。
「そうするとノワール王子」
俺が吟遊詩人の第三王子に話しかける。
「私の事はララバイと呼んでください、今まで通り」
「そうか、ならララバイ、これからお前の住んでいた家に行くぞ」
「えっ、それって……」
「本当の勇者というものを紹介してもらおうかな、お前のいた王国へ」
俺は外套を羽織るとワイバーンの背に飛び乗った。