戦いの礼儀
天馬騎士が数人降りてきた事は気配で判る。
「そこまで大口を叩くのであればそれなりの覚悟はできているのだろうな!」
騎士は剣を抜くと天馬を駆って俺へと向かってきた。
「この殺気は俺の命を奪おうという程のものだな?」
「当然っ!」
騎士が馬上から剣を振り下ろそうとする。
「その覚悟、見事」
俺は覚醒剣グラディエイトに手を添えると、一瞬だけ光のきらめきが辺りを照らす。
「がっ!」
騎士は攻撃する前に天馬ごと真っ二つに斬り割かれた。
「他者を殺めるつもりであれば己も死を覚悟するは戦の倣い。よもや無抵抗の人間に対して一方的な虐殺を騎士たる者たちが行うはずもあるまい。そうだろう、王国の騎士どもよ!」
俺の言葉に天馬騎士の動きが止まる。
「俺もそれに応えなければ礼を失するというもの。だからこそ見事な覚悟と言ったまでだ」
俺はもう一度剣の柄に手を添えた。
「それで、次は誰かな?」
俺がにらみを利かせると騎士たちが一瞬たじろぐ。
「かかってこないのなら俺たちはこれで……」
そう言いかけたところだった。
「ま、待てっ!」
震える膝を無理矢理立たせて俺を引き留めたのは、称号を剥奪されたユーシュだ。
まだ捕縛撚糸で胴は縛られているが元から手足はそれなりに自由が利いている。その点戦えなくもないのだが。
「ユーシュさん! 無茶です、やめてください!」
ユーシュと共に捕縛撚糸で縛られている聖職者の少女が止めようとする。
「ほう。今の剣撃を見てそれでもこの俺に向かってこようというのか。見上げた根性と褒めてやろう」
「お互い勇者を名乗っている者同士、ここは一戦交えなくては示しが付かないからね……」
「いいだろう、もうワイバーンが吊して飛ぶ事もあるまい。マージュ、彼らを解放してやってくれ」
「判りましたわ」
魔法使いの少女マージュが捕縛撚糸を解除する。
「これで有利不利はなくなっただろう。相手になってやる」
「証もなく称号も奪われたが、僕はまだ自分の事を勇者だと思っている。その証明を今示してみせよう!」
ユーシュはいきり立って吠えると、俺がさっき両断した騎士の剣を拾って俺へ向かってきた。
剣を上段に構えながら走ってくるユーシュ。
「ユーシュさん!」
聖職者の少女が叫ぶ。
ルシルは……まあ特に不安げな様子は見せていない。
「くらえっ!」
ユーシュが剣を振り下ろすと俺は少しだけ身体を斜めにして剣先から逃れる。
振り下ろされたユーシュの剣が勢い余って地面を削ると同時に、俺はユーシュの手首を手刀で叩いた。
「くっ!」
あまりの痛みに耐えられなかったのだろう、ユーシュは剣を取り落とすと叩かれた手首を押さえてうずくまる。
俺が剣を蹴飛ばして遠ざけた。
「勝負あったな」
勝利を確信した俺に向かって、天馬騎士たちが四方八方から襲いかかってくる。
「勝てない事は判っているだろう、無駄に命を散らすな!」
「黙れっ! これだけの人数を相手に無事でいられるはずもなし! 覚悟をするのは貴様の方だ!」
前後左右だけではなく上からも俺を狙ってきた。
「そう思うのは今の内だぞ」
俺は剣を抜き払うと、向かってくる騎士たちに切っ先を向けた。
「いいだろう、かかってこい!」