天馬の騎士
急に呼ばれた元勇者のユーシュたちが空を見上げる。
俺も同じようにして上空を見ると、そこには天馬、翼の生えた馬に乗った騎士がいた。それも十人程だ。
「天馬騎士……。どうしてあなたたちがここに……」
狼狽するユーシュたち。
「おいララバイ、天馬騎士とは何だ? 確かに天馬には乗っている鎧の騎士という事は判るが……」
俺は視線を天馬騎士に向けながら、元勇者の一行だった吟遊詩人のララバイに質問する。
「あれはマルガリータ王国の精鋭部隊で、国王直轄の騎士たちです。国王の命のみ従う私的な兵で、実力は国内随一の猛者たちなのです」
「称号だけの勇者ではなく実力も兼ね備えた戦闘集団、という訳か」
「はい、おっしゃる通りですゼロさん」
天馬に乗った騎士たちは俺たちを見下ろしながら会話を聞いていた。
「いつまでも実力の伴わない者を勇者と呼ぶ訳にはいかない。ユーシュ、ただいまをもってそなたから勇者の称号を剥奪する。以上だ」
先頭にいる騎士が宣言すると、それを聞いたにユーシュたちは膝をついてうなだれる。
「そんな……僕たちは一所懸命マルガリータ王国のために勇者をやってきたんだ。こんな形で終わるなんて……。勇者の冒険の旅はこれでおしまいなんて……」
「勇者と言っても所詮は雇われの身、便宜を図ってやった割には結果も出さずに放浪する始末。更には功績も上げずに証を奪われるとは、その体たらくぶり目に余るわ」
ユーシュが落ち込んでいる所へさらに上空の騎士が追い打ちをかけた。
「やはりここは軍が動くべきであったか。このような下賤の民に称号を与えて送り出すなどと、陛下の道楽にも困ったものだ」
「これでよくマルガリータ王国を名乗れたものだな、恥を知れ!」
他の騎士たちもユーシュを言葉で責める。
「おいおい、そこまで言う事もないだろう」
なんとなく気分が悪くなったから俺が割って入った。
勇者の証を破壊したのは俺だという事もあったし。
「なんだ貴様は、これはマルガリータ王国の話である。称号と持たぬ者が口出しするでない!」
俺に対する恫喝。敵意が向けられた事で敵感知が発動した。
「ほう、俺に向かってそのような口を利くか。どうやらマルガリータ王国の騎士とやらは己の力量を超える者に対しての礼を欠いていると見えるな」
「なんだと、我らよりも貴様の方が強いと言うのか!」
「ほらほら弱い奴程これくらいの挑発でも乗っかってくれるものだな。判りやすすぎて張り合いがない」
「くっ……!」
「どうした言葉も出ないか? どうやら空中から嫌味を言うだけかと思ったがそれもできなくなったようだな」
俺は乾いた笑いで騎士たちを嘲る。
「ちょっとゼロ、よそうよ」
「そうだな、所詮他国の問題、俺たちが面倒事に巻き込まれる必要もないか。いやこれは済まなかったなマルガリータ王国の騎士たちよ。少々思った事を素直に口へ出してしまったな。失敬失敬!」
俺が後ろを向いて歩き出そうとしていた所に、お決まりの台詞が返ってきた。
「待ていそこの下郎!」
俺は後ろを向いたまま口角を少しだけ上げる。
感情で動く奴は扱いやすいな。