勇者と勇者
ヴォルカン火山の大噴火で、辺りは昼でも火山灰によって薄暗くなっていた。
噴き出す火山弾が周辺地域に降り注ぎ、木々は砕き倒れ燃えている。
溶岩が火口からあふれ出してわずかに残っている緑を炎で真っ赤に染めていた。
その上空を、ワイバーンの背に乗った俺たちとワイバーンに吊されている勇者たちが飛んでいる。
「これは……凄い」
ララバイが吟遊詩人らしからぬ語彙の少なさで思いを表現する。
「ゼロ……」
ルシルが俺の事を心配そうに見つめた。
「ま、まあなんだ、俺がやらなくとも近いうちにこうなっていただろうさ、うん」
「そうかもしれないけど、きっかけを作ったのはゼロだよね」
なんだか責められている気がする。
「仕方がないだろう、あの時はこれが最善だと思ったんだ。レッドドラゴンとの戦いで洞窟を崩さなかったら俺たちみな息ができなくて死んでいたかもしれないんだぞ」
「うん、それは判っているからさ、悪いとは言わないけど」
「それになんだ、この辺りには人が住んでいないからな、それは救いだろう」
「どうして知っているの?」
「つがいのレッドドラゴンがいる山だぞ。そんな危険な範囲に住もうという奴なんかいるものか」
実際にはどうだか判らないし、仮に村や町があったとしてそれからドラゴンたちが棲み家を造ったのであれば生き残っている人たちがいたかもしれない。
どれも俺の憶測に過ぎないのだが、人が住んでいない事を望んでいる自分がいた。
「ゼロさん」
俺たちの会話が一区切り付いた所で魔法使いのマージュが話しかけてきた。
「火山灰は凄いですが岩が飛んでこないところで一度降ろしてもらえませんか」
「どうした、まだ危険だと思うが」
「ワイバーンがかなり疲労しているみたいで、このままではつかんでいる勇者たちを落としてしまいそうで」
言われてみれば確かにそうだ。
ワイバーンのウィブは、火山から遠ざかりながら合計八人をその身に抱えて飛んでいる。しかも飛んでくる岩石を避けながらの飛行だ。体力も精神力もかなり疲労しているだろう。
「そうだな、ウィブも大分疲れただろう。飛び続けで苦労をかけた」
俺のねぎらいにウィブがほっとしたような声で応える。
「それは助かるのう。儂ももうそろそろ休憩を申し出ようと思ったところでのう」
「そうか。この辺りにはもう溶岩も届かないようだし、岩も飛んでこないだろう。あの大きな岩陰に一旦身を寄せようか」
俺は前方に見える大きな岩を指し示す。
「承知した」
ウィブが方向を微修正して岩山へと向かう。
「おい、下の勇者たちよ」
俺は捕縛撚糸で縛られている勇者たち四人に声をかける。
「一度あの岩山の裏に降りる。体制は整えられないと思うが心構えはしておくんだな」
がんじがらめというわけではないが、勇者たちは捕縛撚糸で吊り下げられている状態だ。高高度から叩き付けられればひとたまりもない。
「て、手加減をしてくれよな」
「ゆっくりお願いします……」
勇者と聖職者が反応して返事をする。
俺はそれを承諾と受け取り、ウィブに降下を命じた。
「承知、勇者よ」
ウィブの言う勇者は俺の事だが、ルシル以外の奴がウィブの言葉に驚きの表情を見せる。
「ゆ、勇者……?」
「ゼロさんが!?」
瞬く間に驚きの声が伝染した。
「勇者が……二人!?」
ララバイの言葉が、この場にいる連中の気持ちを代弁している。
「言わなかったか? 俺は以前魔を統べる王、ルシル・ファー・エルフェウスを倒した勇者、ゼロ・レイヌールだ」