探していた物
ヴォルカン火山の噴火口から立ち上る黒煙の中に火花のような赤い光が混ざって登っていく。
黒い雲は遙か上空まで続いていた。
「本格的に噴火し始めたな」
俺は何気なしに思った事を漏らす。
「でもこれってゼロが洞窟で地面を割ったのがきっかけなんじゃないの?」
「う……」
まさか俺もレッドドラゴンと戦っている時に使った技がここまで大きくなるとは思っていなかった。
「元から噴火しそうな所だったんだよ、きっと。噴火する寸前だったんだ」
「だとしてもさあ」
俺が困った顔をするとルシルがいたずらっぽく笑う。
そんな俺たちのやりとりを見て吟遊詩人のララバイが話しかける。
「ゼロさんルシルさん、それにワイバーンのウィブさん、今回は本当にありがとう。助けてくれて礼を言います」
「わ、私も、ありがとうございます!」
ララバイに合わせて魔法使いの少女、マージュも礼をする。
「成り行きだけどな、目の前で死なれるのも寝覚めが悪い」
「またゼロはそんな言い方をして」
「ですが、なぜ勇者たちはお助けにならなかったのですか? 確かに彼らのやった事は褒められたものではありませんが」
ララバイは自分たちだけ助けてもらった事に負い目を感じているのだろうか。
「気にする事はない。俺は博愛主義でも慈善家でもないからな、誰彼構わず助けるつもりもないし俺に牙を向ける奴まで救おうとは思わない。ただそれだけだ」
「それにさ、ゼロは自分の邪魔をする奴は絶対許さないからね。余程の事がない限りは」
「そ、そうなんですね……」
火山の熱に当てられているからなのか、ララバイは風を切って飛ぶウィブの背中にいながらも汗を拭く仕草をしていた。
「あ、あの……」
マージュが何かを差し出してくる。
「あ、これは……魔晶石?」
「はい、洞窟の中で見つけまして」
マージュの手に乗せている物は、握りこぶし程の大きさの透明な宝石、空の魔晶石だった。
「金貨を詰めた袋は手放してしまいましたけど、ローブのポケットとフードにいくつか入っていたのがあったので……。少しでもお礼にと」
この魔晶石は俺たちが見た中でも大きい方の部類に入るし、透明度もかなり高い。良質の物のようだ。
「いいのか、そうしたらお前たちの持って帰る財宝はなくなってしまうのだろう?」
俺の問いにマージュもララバイも納得顔でうなずく。
「いいんです。私たちは生きてまた旅に出られれば、ここまで大変な旅はできないかもしれませんけど、地道に依頼をこなしたりはできますので」
「こうして命永らえただけでも十分な報酬ですから。ですので今お渡しできる物はこれくらいですが、受け取ってもらえませんか?」
ララバイたちの真摯な想いを受けて、俺はルシルに相談をかける。
「いいんじゃないかな、私たちも魔晶石が目的だったし」
ルシルの言葉に我が意を得たりとララバイがたたみかけてきた。
「それでしたら是非、お納めください」
「ね、ララバイたちもこう言っているんだからさ」
皆は俺がどう答えるかに注目している。
「そこまで言われたら無下に断る事もないか。俺たちもこれを探して旅をしていたんだ。それではありがたくもらおうとするよ」
「はい、ありがとうございます」
俺が宝石をもらっているのに礼を言われるなんて変な気分だ。
俺が魔晶石を受け取った時だった。
「うっ……」
ルシルが眉間にしわを作って頭を抑える。
「どうした……ん?」
ルシルが苦しみながらも山を指さす。
その先には。
「なっ、いったいどういうことだ……」
俺の視線の先には、流れ出る溶岩とは別の動きをするものがあった。