今にも俺が噴火しそうだ
「なっ、何するんだ!」
勇者が俺たちよりも高いところから岩を蹴落としてくる。
岩石は連鎖して土砂崩れのように俺たちを襲う。あの窮地から脱した事はともかく、だからといって俺たちに命懸けの嫌がらせをするとはな。
俺の方が火山より先に噴火しそうだぞ!
「ゼロ!」
「任せろ!」
俺は急いでスキルを発動させる。
「SSSランクスキル円の聖櫃発動! 包め、物理防御の盾っ!」
俺は火山の噴火口内側の踊り場に球体の防御膜を展開した。
落ちてくる土砂は完全なる物理防御に弾かれて崖下へと落ちていく。
「くそっしぶとい奴め! 僕たちを助けなかった恨みは絶対忘れないからな!」
勇者たちは捨て台詞を残して火口を登っていく。
「ゼロどうしよう、道が……今ので通れるところがなくなっちゃったよ」
ルシルの指摘通り、辺りを見ると今まで通ろうとしていた坂は大きな岩で塞がれてしまい、よじ登ろうにも不安定でいつ転がり落ちるか判らない状態だ。
「やってくれたな……」
あの勇者崩れどもめ、放置するのであればともかく俺の足を引っ張ろうとするなどと。この仕打ちこそ絶対忘れない事だろう。
「ルシル、さっき洞窟で話した事だがどうだ?」
俺は横穴を通っていた頃にルシルへ頼んでいた事があった。時間的に間に合えば丁度の頃合いなのだろうが。
「うん、来たよ!」
俺は火口に至るまでの洞窟の中で、ルシルに思念伝達を頼んでいた。
山の外にいるワイバーンのウィブへ連絡を取ってもらおうとしたのだ。
「ほら!」
ルシルが空を見て喜びの声を上げる。
噴煙であまり視界はよくないが、大きな影が日の光を遮っていた。
大きな影はワイバーンの羽を広げた姿だ。
「ウィブ!」
「ここにいたのかのう、勇者よ!」
ウィブは俺の事を勇者と呼ぶが、別の勇者がいる状態ではなんだか変な感じがするな。
「それはともかく助かったぞウィブ! ここに着地する事はできるか?」
俺は踊り場のようになっている場所でウィブが降り立てるように場所を空ける。
「そこだな、ようし今から降りるからのう」
ウィブが羽ばたきながら踊り場へと着地した。
着地の時の羽ばたきで巻き上げられた小石が落ちてくるが気にせず俺とルシルはウィブの背中に乗る。
「四人は行けるか? 駄目でも行ってもらわなければ困るんだがな」
「試してみるかのう。落とされないように頼むぞい」
あっけにとられている吟遊詩人と魔法使いに両手を差し伸べる。
「ララバイと、マージュだったか。さあここから出るには俺の手を取るんだな」
ララバイとマージュが俺の手をつかみ俺は二人を引き上げた。
「よしウィブ、頼む!」
「頼まれたぞう!」
ワイバーンが大きく羽ばたくと熱風と砂煙が舞い上がる。
「ゼロ、噴火口から溶岩の塊が来るよ!」
ルシルが必死で叫ぶ。
「噴火が始まったか!」
小さい溶岩の塊はウィブの近くをすり抜けていく。
いくつもの焼けた岩がウィブの翼をかすめる。
「大丈夫かウィブ!」
「背中が重たいからのう、当たらないようにするので精一杯だのう」
のんびりした口調と違い、ウィブも命懸けで噴き上がる岩の弾丸を避けながら上昇を続けていく。
「ゼロっ!」
ルシルが下の方を見る。
「あれか……でかいな!」
ウィブが羽を広げた幅よりも大きな溶岩の塊が噴火口から突き上がってくる。
このままでは避けきれない。
「どうしようゼロ!」
熱風の中で青ざめたルシルの顔が俺に助けを求めていた。