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噴火直前

「もう少しで火口に出ますよ」


 吟遊詩人のララバイが俺たちに説明する。


「この辺りの通路は何回も調査して地図も作ったりしましたから。まあユーシュ、あ、私たちと一緒にいた勇者なんですけど、彼に持っていかれたままですが」

「だが記憶だけでも助かる。俺は別の道から来たし地図を作ったりしていなかったからな」

「よかったねゼロ、道の判る人がいて」


 ララバイの記憶と自信に、ルシルも少し安心した様子だ。


「ああ。そうだルシル」

「なに?」


 俺はルシルに少し頼み事をすると、洞窟を急いで進んだ。


「さあ、光が見えてきました!」


 ララバイが言うように、外が段々と近付いてくる。


「おお!」


 洞窟を抜けるとそこは火口の内側だった。

 もう一体のレッドドラゴンの棲み家が途中にあればよかったのだが、この状況では脱出を優先すべきと判断した。この状況で探索する事は危険だと判断したからだ。


「これは、いつ噴火してもおかしくないぞ」


 俺は火口から下をのぞき込むと、遙か奥に溶岩の明かりが見えた。

 溶岩の熱気と噴煙が充満している。硫黄のような匂いもするからあまり長居はしない方がよさそうだ。

 辺りを見回すと頂上へ向かう坂が見える。道らしい道ではないが歩いて行ける高低差だからどうにか進む事はできるだろう。


「ゼロ、岩場ばかりだから気をつけて」

「ルシルもな。何だったら手をつないでおくか?」

「そっちの方が歩きにくいから、大丈夫。一人でも行けるよ」

「なら俺の前で登ってくれ。滑ったりしても俺が受け止めてやる」

「うん、なるべく速くでも慎重に行くから」


 言っているそばから大きめの岩に足を取られて転びそうになる所を俺が受け止めてやった。


「ごめんゼロ」

「気をつけなよ」

「うん」


 坂の途中にいくつもの横穴が見える。複数の洞窟がつながっているのだろう。

 その横穴を見て吟遊詩人のララバイがぼやいていた。


「余裕があれば探索にも行きたかったのだけどね、今は生きて下山できるかが最重要だからなあ」


 ララバイが言う通りだ。

 まずはここから生き延びなくてはならない。温度変化無効のスキルは勇者固有のSSSランクスキルだが、それは燃えないというだけであって溶岩に埋もれて口でも塞がれてしまったら呼吸ができずに死んでしまうだろう。

 それに俺以外は溶岩の海に落ちたら一瞬で燃え尽きてしまう。


「だからこそ、ここを抜けなくてはならないんだ……」


 熱風で肺が焼けるようだ。息をするのも苦しい。


「お、少し休憩できるかな」


 俺は踊り場のように少し幅の広がっている場所を見つけるとそこへ腰を落とした。

 息も絶え絶えで山を登るルシルたちを見ていての緊急措置だ。


「ここで呼吸を整えよう。スキル発動、冷気の風鎧(クーリングウィンド)!」


 俺を中心に冷気をまとった風が渦を巻いて広がる。


「ふあぁ、涼しい……」

「助かりますゼロさん……」


 ルシルや魔法使いの少女マージュが涼を取って一息つく。


「どうした吟遊詩人」


 俺は冷気の内側に入らない吟遊詩人のララバイに話しかけた。


「いえね、風の中に入ってしまうと音がよく聞こえなくなるので。火山の様子を私が見ていますから、その間皆さんは休んでいてください」

「いいのか?」

「はい、風の外側でも少し涼しいので助かりますよ」


 ララバイは優しそうな笑みで応える。


「そうか、それは助かる。それなら俺たちも回復したらすぐに出発できるようにしよう」


 ルシルとマージュも同意してうなずく。


「あ!」


 ルシルが頂上付近を指さす。

 皆が一斉にその先を見ると、そこには傷だらけになりながらも他の横穴から出てきた勇者たちがいた。


「よくもさっきは見捨てて行ったな!」


 勇者が近くの岩を蹴ると周りの岩石を巻き込んで俺たちの方へ落ちてきた。

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