離脱と合流
俺は抱えている吟遊詩人を引っ張る。吟遊詩人は両手で魔法使いの少女の手を握って崖から落とさないように頑張っていた。
「その荷物を早く捨てるんだ!」
吟遊詩人が魔法使いに吠えた。
「財宝は後でどうとでもなる! だがお前が死んだら代わりはいないんだぞ、マージュ!」
「ララバイさん……」
この吟遊詩人は骨のある奴のようだな。こういう奴は溶岩に食わせるには少し惜しいか。
「……うん」
マージュと呼ばれた魔法使いの少女は手にしていた背負い袋を離すと、背負い袋は中の金銀財宝をばらまきながら崖を転がっていった。
大分軽くなったのが俺にも判る。
「よし、そろそろ引き上げるぞ。吟遊詩人の兄さんよ、しっかり握っておくんだな」
俺は二人に声をかけると一気に力を入れた。二人は俺に引きずられるまま崖の上に引きずり上げられたのだ。
あっけにとられる二人。
「呆けている暇はないぞ、ここも長くは保たないからな。とっとと逃げるに限る!」
俺は引き上げた二人に忠告すると、通路の入り口で待っているルシルと合流する。
「待たせたなルシル、少し手間取った」
「ゼロだったらすぐに引っ張り上げちゃうんだと思ったけど」
「急に持ち上げて手を離したりでもしたらと思ってな、慎重すぎたか……」
「ううんそんな事ないよ。助けてあげられてよかったね。ゼロのやった事は正しいよ」
ルシルが笑顔を俺に向けながら通路を進む。
溶岩から離れるにつれて通路は暗くなるが熱さからも遠ざかっているのだろう、息苦しさはなくなってきた。
「だといいな。ありがとうルシル」
「うん。それにしても天井に穴開けちゃったね。相変わらず手加減を知らないんだからゼロは」
「……すまん。魔晶石もたいして見つかっていないというのに」
「小さいのなら少しは拾えたんだけどね、大きいのとかはなかったから他を探してみようよ」
俺はこの洞窟で見つけた魔晶石をかざしてみる。
中央に強い光を宿す魔力保管の宝石。この光のおかげで洞窟も少しは見えるようになった。
「おおい、ちょっと待ってくれ!」
背後から声がする。
さっき助けた吟遊詩人のようだ。
「なんだ、早くここから離れないと溶岩が噴き出してきているんだぞ、通路まで来たら助からないんだから待っていられるか! そっちが速く走れよ!」
俺の一喝で吟遊詩人たちも猛烈な勢いで走ってくる。
「そうそれでいい。早くここから離れるんだ!」
この洞窟も昔の噴火の時の溶岩の流れ道だったのだろう。溶岩が流れ出す時ここを通っていったとして、外側から固まり始めた頃はまだ中を流れる溶岩は固まらずに先へ流れる。そうして洞窟になったのだとすると。
「ここも溶岩の流れ道……か」
この閉鎖されている空間で溶岩が流れてきたら俺たちだって完全に助からない。
「ゼロ、急ごう!」
「ああ!」
ルシルの掛け声に俺と後ろの連中が付いてく。
入り組んだ洞窟をとにかく進んでいくと、正面にまた少し開けた場所へ出た。
「こ……ここは……」