財宝集め
勇者一行はドラゴンを倒し意気揚々と財宝をかき集め始めた。
「な、なあ君たち、勇者とその一行……だったりするのか?」
俺の問いかけに勇者と呼ばれた青年が振り向く。
「危なかったね、僕たちがこなかったらドラゴンに食われていたかもしれないよ。ほんと、間に合ってよかったよ」
そう言いながらも勇者の青年は背負い袋に金貨を詰め込んでいる。
「浅ましい……」
ルシルがつぶやく声を勇者が耳ざとく反応した。
「何かな、ちょっと気になる言葉が聞こえた気がするけど……」
「よしなよユーちゃん、相手は小さい女の子だよ!?」
魔法使いの少女が勇者を抑える。ユーちゃんと呼ばれた勇者は舌打ちをしながら金貨集めに戻る。
「ルシル、奴らは放っておこう。俺たちに刃向かってこない限りは相手にする事もないさ」
「そうね……うん、判った」
俺はルシルをかばうように勇者一行との間に割り込む。
「この場は一応礼を言っておこう。だがこの亀裂、溶岩も噴き出してきているからな、早く逃げた方がいいと思うぞ」
「そうか? これだけの財宝をみすみす逃す訳にも行かないし、何よりドラゴンを倒した証拠も持って帰らなくちゃな。なあみんな?」
勇者の呼びかけに一行もうなずく。
「ほらな? 勇者は勝利したら怪物たちの財宝をいくらでも好きなだけ持って帰れるんだよ。だから勇者はやめられない! 悪い奴を倒してお宝も手に入る、国の人からも尊敬されるしな!」
勇者たちは高笑いしながら財宝を集めている。
「でもユーちゃん、これだけの宝は持って帰れないよ。多すぎるよ」
「そうだなあマージュ、価値の高そうな物だけ持って帰ろう。金は重たいから特に装飾品とか細工のあるような物がいいかもな」
勇者は一度背負い袋に入れた金貨を床にばらまいて、金の水差しや食器、燭台などの金細工の品々を入れ始めた。
「ゼロ……」
「ああ」
溶岩が噴き出し地面の裂け目が崩れて崖となる。
地面が震動し地響きも聞こえていた。
「もう長くはないな、俺たちは出るとするか。金は多いが魔晶石は見当たらないみたいだしな。町に来たドラゴンのねぐらはこことは別なのかも知れない」
「そうねそうしよう。私も早くここから出たい」
「そうだな。行こう」
俺たちは勇者一行を残して来た道とは別な通路へ進もうとした。
「おおっと」
大きな地響きと共に崖からドラゴンが滑り落ちていく。
「きゃぁっ!」
一行から悲鳴が上がる。地面が崩れて溶岩に飲み込まれ、その崖の端に吟遊詩人の格好をした男が腹ばいになっていた。
「どうした!」
俺はルシルを通路に残して勇者一行の元へと駆けつける。
俺が見た光景は、崖に落ちた魔法使いの少女の手を吟遊詩人がつかんでいるものだった。
「た、助けて……」
魔法使いの少女は涙ながらに訴える。少女の遙か下には熱く煮えたぎる溶岩が熱と光を発していた。
「荷物を……捨てるんだ……」
吟遊詩人が魔法使いに手にしている背負い袋を手放すよう指示する。
「でも、財宝が……」
「宝より命の方が大切だろ!」
吟遊詩人が叫ぶ。
俺も吟遊詩人を背後から抱えて吟遊詩人と魔法使いが落ちないように支える。
「それより他の奴らは何をしているんだ!」
俺が振り向くと勇者たちはその場で固まっていた。あちらこちらを見たり瞬きが速くなったり、突然の出来事に戸惑っている様子だ。
「ぼけっとしてんな! 動ける奴は手を貸せ!」
俺は勇者たちに怒鳴りつける。
「で、でも宝……」
「そんな物はどうでもいいだろう! この状況で何をぼさっと財宝集めなんかしてんだよ! とっととこっちに来て手伝え!」
「だって危ないし……」
「危ないもへったくれもあるか! 危ないのはお前たちの仲間の命だろうが!」
「ふぁ、ひゃい!」
勇者たちは背負い袋を手にしたまま俺たちの方を見るが、それでも動かない。
「マージュ、ごめん!」
勇者は荷物を背負うと脇道の一つへと逃げて行く。
「な、なんだこいつ! 仲間を置いて逃げるってのか!」
仲間の危機に助けるどころか財宝だけ持って逃げるとは、こんな奴が勇者を名乗るとは!
「い、痛いよ君……」
つい腕に力が入って吟遊詩人を締め上げてしまう。
こうなったら……。