割り込み勇者
ルシルが勇者と指摘した男とその連れが洞窟に押し入ってきた。
この六人は俺たちが来た道とは別な場所から現れた訳だが、そうすると他にも洞窟に潜り込める道があったと言う事だ。
もちろん、レッドドラゴンが行き来するくらいの広い通路もあるはずなので、それ自体はなんら不思議なものではないのだが。
「それにしたって、勇者の大安売りだな」
俺たちの事は特に気にする事もなく勇者一行はドラゴンに向かって戦いを挑む。
割れた地面から溶岩が噴き出す危険な場所でだ。
「よし、いつも通りの作戦で行くぞ! 僕とゴライアスが突撃をかけてピックは撹乱、マージュ、プリス、ララバイは後ろで支援を頼む!」
指示をした勇者はドラゴンに向かって剣を突き立てる。
他の奴らも斧を打ち付け、魔法を放つ。レンジャーらしき小柄な男がドラゴンの視界でうろちょろしながら目標を定められないようにして、その隙を突いてまた前線の攻撃陣が斬りつけていく。
「こしゃくな人間ども! 竜種の最上位たる我がお前たちのような小さく弱く卑しい輩に……っ!」
だが半身を溶岩に焼かれたドラゴンは傷の回復もままならない状態で勇者一行の攻撃を受ける。
斬られた傷口から体液がほとばしった。
弾け飛んだ竜の鱗が光って落ちる。
丸太のような尻尾も切り刻まれて皮一枚でつながっているに過ぎない。
「もう少しで倒せるぞ!」
「僕がとどめを刺してやる!」
「いけー、ユーちゃん!」
結果として俺が天井を破壊したためなのか、息苦しさは減ったがその分レッドドラゴンのブレスが力を取り戻してた。
直撃ではないにしても勇者たちはその火の粉だけでも深い傷を負ってしまったようだ。
「プリス、回復術を!」
「こっちもお願いプリス!」
聖職者だろうか、回復魔法を使えそうな女の子に勇者と戦士が治癒魔法をかけてもらいに戻ってくる。
俺はその動きを見てあきれてしまってつい愚痴を吐いてしまう。
「前線に残る奴が誰もいなくてどうするんだ。まさかあのレンジャーの撹乱だけでこの場を凌ごうと考えているのか? 相手は重傷を負っているとはいえ凶暴で知られるレッドドラゴンだぞ」
「駄目だよゼロ、こいつら私たちの言葉は耳に入っていないよ。それに……」
ルシルはこいつらが来てからずっと俺の後ろに隠れている。
「勇者って、嫌い……」
俺とはいろいろありながらも結局こうして共に旅をしているが、基本的にルシルは魔王だ。
勇者とは水と油、交わる事はない。
「よし、最後の一撃だ! これで終いにしちまうぞ!」
「おおっ!」
勇者一行がドラゴンと戦う。
端から見るとよく判るが、一方的な戦いだ。ドラゴンに反撃する余力は残っていない。
「くっ、こんな事で……竜種の血脈を一筋失う事になろうとは……」
無念そうなドラゴンのうめき声を聞いて胸の奥がざわつく。
勇者たちはその言葉に意識せずにドラゴンの腹、腕、首、そして頭に剣を突き刺した。
「ついに僕たちは邪悪なるレッドドラゴンを屠る事ができたぞ! おお、そう言えばそこで隠れている少年少女よ、どこかで見たような、見ないような。まあいいだろう」
勇者は血を吐いて倒れているドラゴンの頭に飛び乗る。
「ほぉら、こんな事をしてもドラゴンは少しも動かないぞ。もう僕たちの怒濤の連続攻撃でドラゴンも返事ができないくらいに……」
勇者が飛び乗った下でドラゴンが目を開けた。
「この人間風情がぁっ!」
「おおっと」
慌てながらも勇者はドラゴンの頭に剣を突き立てる。
「い、いい加減これで終わってくれよ……」
勇者の情けない声が洞窟に響いた。