息苦しい戦い
残る敵はドラゴン一匹。
だがそのドラゴンが曲者だった。
「ドラゴンになれなかったとはいえ自分の卵から生まれたドラゴニュートたちを倒してしまったのだからな。その怒りは治まらないか」
努めて冷静に考えるようにしている。焦ったところで勝率は下がる一方だからだ。
俺は温度変化無効のスキルがあるためドラゴンブレスの炎で怪我を負わないが、俺の装備は完全耐性を持っていない。炎に焼かれれば当然燃えてしまう。
「まずは直撃を避けるか。流石に全裸で戦うつもりもないからな」
ドラゴンの吐くブレスは炎だけではなく風の勢いもかなりのものだ。簡単な布や革の装備では吹き飛ばされてしまう。
俺は炎の帯を躱しながらどうにか接近するように隙を探す。
「これだけ緩慢なく炎を吐き続けるとは、なかなか踏み込めないな!」
俺はドラゴンを中心にして周りを走り回る。当然ルシルのいる方向からは逸らす目的もかねてだ。
「ちょこまかと、人間! 素直に消し炭になれっ!」
「そう言われて、はいそうですかって行くかよ!」
尽きる様子も見せないドラゴンブレス。いったいいつまで続くんだ。
俺も流石に走り回っているだけあって息が切れる。
「こうなれば裸になる事も覚悟するか……」
そう俺が思い始めた頃だ。
ドラゴンブレスの勢いが弱まっていくように思えた。
「ようやく向こうも息切れ……し始めた……か」
息が苦しくなってくる。
「なんだこれは……ど、どうした……」
俺の呼吸も苦しくなって、息が荒くなっていた。
大きく息を吸い込むが入ってくるのは炎で熱せられた焼けるような空気ばかり。
「それどころか……頭痛がしてクラクラする。なんだ、身体が重い……」
視点が定まらなく目眩がする。息が続かない。
俺が苦しむその視野の端でドラゴンの吐く炎が少なくなっていく所が見えた。
「息が……苦しい」
いったいこれは何だというのだ。何かの魔法かドラゴンのスキルなのか……。
「このままでは……やられるっ!」
俺は力を絞り出して剣を構える。
「剣技……SSSランク、スキル発動っ! 重爆斬!」
俺の斬撃がドラゴンに向かっていく。既に細くなった炎を吐き続けながらレッドドラゴンは身体を動かし俺の剣圧から逃れようとする。
「いっけぇ!」
俺の叫び声が自分の耳の中で響く。実際には声になっていないのかも知れないが、それでも吐き出せるものは全て放出するくらいの勢いだ。
俺の斬撃が洞窟の地面を割る。その剣撃がドラゴンの翼を切り裂いてもぎ取った。
「もっと……もっとだぁ!」
さらに俺は力を込めて剣を洞窟の床へ突き立てる。剣の圧力が地面のヒビをさらに大きくしていく。
俺が力を込めれば込めただけ大地が割れ地面が裂ける。
「割れ目から……光!?」
赤く黄色い光が裂け目から溢れ出ていた。
岩をも溶かす強烈な光。
それ以上に熱風が吹き出す。
「これに突き落とせばドラゴンといえども!」
俺は迂回をしながらドラゴンの脇に回り込むと肩でドラゴンに体当たりする。
「なっ、人間めぇ!」
ドラゴンは裂けた割れ目に落ちそうになるところを必死でこらえていた。
「頑張ったところでどうする事もできないぞ」
「ほざけ人間!」
「奥から噴き出す物が見えないのか?」
「なんだと!?」
地面のひび割れから赤く輝く巨大な熱量が飛び出したのだ。