臣下に進化
あっけにとられるシルヴィア。
「わ、私が、あなたのもの……」
「こんな状態で愛の告白ごっこかぁ!? そんな事でほだされて弟を見捨てるような女じゃぁねぇだろ!」
ソウッテがいくらわめこうが俺には関係ない。
「シルヴィアお前は今から俺の臣下だ。後で撤回してもいい。だが今はお前と、お前の家族を守りたい。王として守らせてくれ」
俺の想いをシルヴィアにぶつける。
「なぁにをごちゃごちゃと……」
「はい……」
「なにぃ!?」
ソウッテが喚き散らす声に重なって、小さくシルヴィアが答えた。
「あなたにお仕え致します、王よ」
シルヴィアの手から短剣が落ちた。
俺はシルヴィアの言葉を聞いて全身に力が湧いてくる。
「決まりだな」
俺の頭の中に糸の束が思い浮かぶ。指の力を抜き頭に浮かぶイメージの通りに親指を動かす。柔らかく、ほぐすように。
すると今まで外せなかった親指の拘束が簡単にほどけた。指がするりと抜けて自由になる。
「裏切ったなぁ、女ぁ! こうなりゃこのガキを」
「遅い」
俺はカインに駆け寄るとソウッテの手を払う。
「俺に人質は通用しないとこの間の戦いで学ばなかったか?」
カインが俺の懐へ倒れこむ。カインを左手で抱えて右手の掌底をソウッテのあごに叩き込んだ。
「ぶえっふ!」
ソウッテの顔がさらにひしゃげて吹き飛んだ。砕けた歯がバラバラになって飛んで行く。
「うわ、ソウッテ様がやられた! 誰だよ裸で縛られてるから楽勝とか言ってた奴はよー!」
「ふざけんな、むちゃくちゃ強ぇじゃねえか! 元勇者こえぇ!」
「それ早く言えよ! に、逃げるしかねえだろ!」
意識が戻った男たちや遠巻きに見ていた兵士たちは、ソウッテが一方的にやられる姿を見て我先に逃げ出そうとする。
「待て」
俺の制止する声に男たちが一瞬で凍り付いた。力の差を理解しているため俺の言葉に逆らう奴はいない。
「倒れている奴も連れて帰れ。そこのカギ爪の奴もだ」
「は、はいぃー!」
「追わないでいてやるからゆっくり逃げろ」
「は、はいぃー!」
男たちは意識のない奴らを担いで逃げていく。
「ほら、シルヴィア」
俺は抱えていたカインをシルヴィアに預ける。
「目隠しはもう取ってもいいんじゃないか?」
「いえ、カインは少々目を患っておりまして、ここでは……。このスパツの町に来たのも、初めは目の療養のためでしたので」
「そうか。訳ありならば構わないさ。どれ、それなら首の傷を見てやろう。簡易治癒」
俺はカインの首の傷に治癒魔法をかける。
「ああ、ゼロ様、ありがとうございます! ありがとうございます……ううっ」
「ゼロ様ありがとう、もう痛くないよ!」
「ごめんなさい、カイン。お姉ちゃん、あなたを守ってあげられなくて」
「ううんそんなことない、そんなことないよお姉ちゃん、ボク泣かなかったよ、我慢できたよ……」
「うん、よかった。カイン、本当によかった……」
シルヴィアとカインが抱き合いながらその場に座り込む。
「大したことがなくて何よりだ、なあルシル。ルシル?」
さっきまでここにいたルシルが見当たらない。
「そーだねー」
下か! ルシルは俺の目の前でしゃがんでいた。俺の真正面で。
「大したことないよねー、うん、ケンタウロスやミノタウロスに比べたら、大したことないねー」
「何を言って……んなっ!」
俺は急いでバスタオルを羽織った。
「ルシルー、一体お前は何を比べていたんだ!」
「さぁ? しーらないっ」
とぼけた顔をしてルシルは浴室から出て行った。
【後書きコーナー】
男主人公の全裸格闘、誰得だよって話ですね。




