レッドドラゴンの目覚め
どこからか光が入ってきているのか、外が近いのか、大きな空間は薄明かりに照らされていた。
洞窟の中を見る事ができたからこそ、目の前の光景に俺は驚きを隠せなかった。
「レッドドラゴン……。あの時に倒したはずだ」
ワイバーンのウィブを追ってエイブモズの町まで襲来してきたレッドドラゴン。激しい空中戦の末に倒したものとばかり思っていたが。
そのレッドドラゴンが金塊の上に横たわっていた。
腹部が呼吸に合わせて動いていて、その度に金貨の山から何枚かの金貨が固い音を立てて転げ落ちている。
「ゼロ、あの時レッドドラゴンは倒したよね」
「ああ……。となると考えたくはないがこんな近くに別個体がいたという事だな」
俺たちが倒したレッドドラゴンとは別のドラゴン。
ドラゴン自体が珍しいというのに、こんな近くに二体目のドラゴンがいるとは。
空を高速で飛べるドラゴンにしてみればワイバーンが三日で行ける距離などは目と鼻の先と言っても過言ではないだろうからな。そんな距離に二体のドラゴンがいてはこの辺りは縄張り争いで焦土と化しているはずだ。
「だとすると……」
俺は一番考えたくなかった事を口にする。
「つがい……ではないか」
「ドラゴンの?」
「そうだ。ドラゴンといえども単為生殖はできないだろう。だとすればここを繁殖地としていたのであれば二体のドラゴンがいても不思議ではない」
ドラゴンはまだ目を開けずにいる。
俺たちの気配は察知していないのだろうか、それとも敵視するに値しないとでも考えているのか。ドラゴンは特に寝返りを打つでもなく金塊の山の上で寝そべっていた。
「ゼロ、あれ……」
ルシルが指し示す先には、いくつかの宝石のような輝きが見えた。
「魔晶石、みたいだな」
「うん。あっちにも、ほらその向こうにもあるよ」
確かにルシルが言う通り、そこかしこに魔晶石が転がっている。
「大きいものもあるな。これなら結構な数が集められそうだが。だがこのドラゴンをどうするか、だな」
「そうね」
俺たちはなるべく気配を察知されないように注意を払い、魔晶石を集めようとした。
そこへ地鳴りのような音がしてドラゴンの鼻息が金貨の山を吹き飛ばす。
「ゼロ……」
「静かに……」
俺たちは動きを止めてドラゴンの様子をうかがう。
ドラゴンの目が開き俺たちの姿がその瞳に映ったような気がした。
ドラゴンが首を持ち上げて俺たちの方を見る。
確実に認識されている状態だ。
「侵入者よ……」
ドラゴンの口から重々しい声が聞こえる。
「我の眠りを妨げる侵入者よ、何しに来たのだ」
ドラゴンはまだ完全に目覚めていないのかもしれないが、ゆっくりした動きで金塊の山に立ち上がる。
「ゼロ、あのドラゴンのお腹の下!」
金塊の山とドラゴンの間に見える白く丸い物体。
ドラゴンが抱えていたものは……。