第三の攻撃と力押しの反撃
俺はファズバーンの剣を二本同時に剣で受け止めた。力を込めて弾き返そうとした時に、俺の脇腹を強烈な一撃が襲う。
「ぐふっ……」
「ゼロ!」
肺の中の空気が漏れる。口から血が噴き出してきた。
この丸太を打ち付けられたような衝撃は……。
「尻尾、か……」
俺の脇腹にファズバーンの尻尾が当たっていた。尻尾から飛び出している無数の棘が俺の脇腹に突き刺さる。
「ドラゴニュートの尻尾はドラゴンの尾も同じよ。それだけで一つの武器になる。手足だけの人間では思いもよらなんだか!?」
ファズバーンの高笑いが聞こえる。
「言われてみればそうか……。獣は爪だけではなく尻尾も噛みつきも武器だったな。人間の姿に俺は錯覚していたかも知れない……」
ファズバーンの尻尾は小躍りしてるように跳ねて地面を叩いていた。その度に地面がえぐれ土が舞う。
「どうだ、お前のか細い腕では剣一本で戦うが関の山、我の三方攻撃からは逃れられ」
ファズバーンの言葉が途中で遮られる。
俺は超加速走駆でファズバーンの後背に立っていた。ファズバーンの脇を瞬時に通り抜けて。
「ぐはっ!」
ファズバーンの尻尾が地面でのたうち回っている。身体から切り離された尻尾だけが。
「よくもやってくれたな! 人間風情が!」
「攻撃手段がいくつあろうが同時にどれだけ手数を繰り出そうが、それを上回る速度で対応すればよいだけの事。通り抜けざまに斬り払うなど造作もない」
「くっ、だが尻尾ならばまだ生えてもこよう……」
「ほう、まるで蜥蜴だなあ。だが俺は尻尾なぞとは言っていないがな」
「な、に……」
ファズバーンの尻尾、その切り口の延長上である腹、腕と赤い筋ができあがる。
「まさか、あの一瞬で……すれ違いざまの一撃で我を……」
ファズバーンの身体が赤い筋に沿ってずれ始めた。
「やるな少年……だが我は火竜三晶星の中でも弱輩の身……これよりお前の本当の地獄が待ち構えておるのだ! グワッハハハ!」
高笑いをしながらも身体を分断されて絶命するファズバーン。
肉塊となったドラゴニュートの身体が地面に散らばった。
それを見て五匹の蜥蜴人間たちは洞窟の奥へと逃げ去っていく。
「最期には戦士らしい覚悟だったな」
「いいのゼロ? 彼らを逃がしてしまって」
「ああ、これを見て俺に攻撃をしようと思わなければ助かるのだが」
「応援を連れてきたらどうしよう。このドラゴニュートも自分が一番弱いみたいな事を言っていたし」
「そうだな。その時はその時で考えるさ。それよりもレッドドラゴンが巣にしていた場所と魔晶石のありかを探さないと」
いざ戦闘になれば負ける気はしないが、戦いそのものが俺にとって面倒な事だったりもする。魔晶石を見つける目的を邪魔するものでしかないからだ。
「なるべくなら戦わないようにできればいいんだけどな……」
「ん、何か言った?」
「いや、何でもない。早く見つかるといいな、魔晶石」
「そうだね~」
気楽な会話をしながらも俺たちはいくつかある脇道の一つへと進んでいった。