火竜三晶星
俺の目の前にいるのは蜥蜴人間とは別の種族、ドラゴニュート。
「火竜……三晶星」
「知っているの、ゼロ!?」
「い、いや、知らない……」
「だよね……」
蜥蜴人間たちを下がらせて前に出てきたドラゴニュートのファズバーン。
両手に幅広の剣を持って二刀流の構えを見せる。
「今は知らずともこれから世に名を轟かせる事になろう。だが惜しむらくは少年、お前たちは我の名をその心に刻み込む事はできん」
「ほう、俺もそこそこ記憶力はいい方だがな、覚えておいてやってもいいんだぜ」
ファズバーンは右手に持った剣を俺に向けた。
「今からその命運尽きるため、覚えていられるのもほんの一時と知れぃ!」
「なんだ結局死ぬまで覚えていろって事じゃないか」
「ぐ、ぬぬ……」
「所詮は爬虫類か、蜥蜴人間とたいして変わらないな、頭の中身は」
ファズバーンが怒りに震えているように見える。鱗に覆われた顔では表情はあまりよく判らないが。
「我を愚弄するか!」
ファズバーンが俺に向かって駆け出してきた。
「受けて立ってやる」
ファズバーンの右手の一撃は上からの攻撃。振り下ろした剣を俺は右から払って軌道を変える。ファズバーンの剣が地面をえぐり一瞬止まった。
だが同時に左手の剣が横薙ぎに振られる。
俺は後ろに小さく跳んでその剣筋を躱すが、そこへファズバーンの右手の剣でえぐられた地面の土が俺の顔に飛ぶ。
「くっ!」
目の中に跳ねた土が入り一瞬俺は目を閉じてしまう。
「脆弱な哺乳類は目を守るものがないからなぁ!」
ファズバーンの声が聞こえる。早く目を開けなければ。
風を切る音と俺の身体に押しつけられるような風圧を感じて、俺は右手に転がるようにして受け身を取る。
目をこすりながらどうにかまぶたを開けると、俺のいたところにファズバーンの剣が通過したところだった。
「汚い真似をする……」
「はっ! 命を懸けた戦いに綺麗も汚いもないわっ! 勝者、それのみが正しいのだ!」
「なるほど、強い者が勝つのではなく、勝った者が強かった、という訳か」
「まったくもってその通り、至極当然な自然の摂理よ!」
ファズバーンが身構える。あの二本の剣をどうにかしなければ。
だがあの剣を無力化できれば奴の戦意も落ちるはず。
「我が棲み家を汚したその報いをその身で受けよ、少年!」
ファズバーンは先程と同じように二刀流で攻撃を仕掛ける。
俺は躱し、払い、打ち合って抵抗を続けた。
「そおれそれそれ!」
次々と繰り出される剣に俺は防戦一方となる。
「手数が多い。まるで何人か同時に戦っているような感覚だな」
複数人数で取り囲んで数で圧倒するというのは、簡単で強力な戦い方だ。
「それにあの剣、幅広で重たそうだがそれを感じさせない速度で繰り出してくるあの膂力、並大抵の力ではないな」
「何をほざいておるのだ! 泣いて詫びを入れるのなら今のうちだぞ!」
かさにかかって攻めてくるファズバーン。
「ほう、そうすれば剣を引いてくれるとでも言うのか?」
俺は防戦しながらも敵の弱点を探る。
「引く訳なかろう! お前の命の炎が燃え尽きる、その時間が早まるだけの事よ!」
ファズバーンが二本同時に剣を振り下ろしてきた。
これを待っていた。
同じ勢いでファズバーンの剣が二本とも打ち下ろしの形となる。俺は剣でそれを受け止めた。
二本同時ならこちらは一本の剣でも受けられる。
「なっ!」
押し切る事のできないファズバーンが驚きの声を上げた。
このまま弾き返して奴の体勢を崩せれば、後追いで攻撃魔法を叩き込む。
そう思った俺の脇腹に強い衝撃が走る。
「なにぃ!」
今度は俺が驚く番になってしまった。