洞窟探索
洞窟に入ってどれだけ経っただろうか。もはや入り口の光は針の穴程も見えない。
手元の永久の火口箱で枝に点けた明かりだけが頼りだ。
「ルシル、大丈夫か」
「うん……」
ルシルは俺の外套をつまんで付いてきている。
その引っ張られる感覚でルシルがいる事は判っているが、この暗い中での移動が俺にも不安を宿らせた。
「また分かれ道だ。さっきは右の道を行ったが今度も右にするか?」
「うん……」
「よし、じゃあ行くか」
俺は脇道に向かって歩き出す。
「ゼロ、そっち左だよ……」
ルシルの指摘に俺の足が止まる。
「お、おう。そうだな、左、左に行こう」
「うん……」
俺はそのまま左の脇道を進んでいく。
ルシルは相変わらず怯えたままだ。
さて、どうしたものかな。
「道は大分狭くなってきているな。これだとウィブが通れなかったかもしれない。連れてこなくて正解だったな」
「そうだね。私たちが通る分にはまだ十分な広さがあるけど……」
永久の火口箱の明かりでかろうじて見える壁と天井。確かに人間の大きさならどうにか通れるが、少し不安もある。
「ゼロ、あれ……」
前方に人型の影が見える。
相手もこちらの明かりに気が付いて振り向く。
「俺の悪い予感が的中したかな」
耳の奥が痛くなって、Nランクの常時発動スキル、敵感知が敵に狙われている事を知らせてくれる。
「暗がりから襲ってくるかもしれないし知らないうちに後ろへ回り込まれているかもしれない。ルシル、俺にしっかり付いてこい」
「うん」
人影の方へと進んでいくと、少し広い場所へ出た。
ヒカリゴケだろうか、多少ではあるものの青白い光で壁の輪郭が判る。
「お前ら近寄るな、俺は別にお前らに危害を加えようとして来た訳じゃないんだ」
この人影に言葉が通じるだろうか。
不安を持ちながらも俺は呼びかけを続ける。
「俺はどうしても魔晶石が必要なんだ。それがないと困るんだよ。だからお前らの邪魔はしないからこのまま見逃してくれ」
俺は左手に持った明かりの点いた枝を前に突き出して人影へと向けた。
「あれ? ゼロ、あれって」
「蜥蜴人間?」
俺もルシルもよく知っている蜥蜴人間の姿だ。人型爬虫類のリザードマンだ。
「ルシル、ウィブの言っていたドラゴニュートじゃないよな、あれって」
「そうだね。でも、だとすると……」
「そうか」
ルシルが目を閉じて集中する。
ルシルの使えるNランクスキル、思念伝達で相手との意思疎通を図っているのだ。
「ゼロ、ごめん……」
ルシルが目を開けて首を横に振る。
「棲み家に入ってきた奴は命で償えって、そんな感じの事を言ってる」
「そうか。なら奴らの中で一番強い奴と一騎打ちを望んでいると伝えてくれないか」
「うん、言ってみる」
できれば荒事は避けたいしお互い被害は最小にしたい。
「どうだ?」
ルシルが返事をする前に蜥蜴人間が襲いかかってきた。
「交渉決裂か! 仕方がない、蜥蜴人間に被害が出るがそれは仕方のない犠牲だ!」
俺は手にした覚醒剣グラディエイトを構えると、突進してきた数名の蜥蜴人間たちに狙いを付ける。
なるべくなら苦しまずに死なせてやろうか。
俺の剣が永久の火口箱の淡い光を反射して不気味な輝きを放っていた。