ヴォルカン火山と黒煙と
空を飛んで四日目。
途中で休憩や睡眠を取るために地上に降りて宿営を行うが、それ以外はウィブが辛くない程度に空を飛び続けていた。
「もうこの辺りでは村どころか人の住んでいる気配もないな」
俺は広がる平原を見てつぶやく。
地面で見える物といえば野牛の群れなどの大型の草食動物かそれを獲物にする狼たちが見えるくらいで、それでもまれだった。
「そうね……ねえ見て、前!」
飛んでいる正面だから俺も気が付いていたが、前方の遙か先に一筋の黒炎が見える。
「すごい、雲まで煙が上っているよ」
「ついに来たかヴォルカン火山……。あれで間違いないかウィブ?」
俺は身を乗り出してワイバーンのウィブに聞こえるよう大きな声でたずねた。
「そのようだのう。儂も思い出す限りではあの黒煙を吐く山だと思うわい」
「なんだはっきりしないなあ」
「まあ許せよ勇者。あの時は赤竜に追われてそれどころではなかったのでのう」
「そうか、あのレッドドラゴンの根城だったらしいからな」
「まさしく」
それでは仕方がないだろう。ウィブも命からがら逃げてきたのだろうから、周りの景色など見る余裕はなかったはずだ。
「あのレッドドラゴンは倒したからな、根城といってももう安全だろうよ」
「そう期待するわい」
俺たちは黒煙に向かって距離を詰めていく。
段々と山の様子も見えてきて、その熱を帯びた山肌とまばらな木々、荒れた大地の様子が判るようになった。
「これは、大分荒れた土地のようだな。草も少ない。作物を育てるのには適していないか」
「これだけ荒れていると動物も集まらないね」
「そうだな。ドラゴンにとってみればそれがかえって好都合なのかもしれないがな」
「そっか、なるほどね~。確かに食事には不便そうだけど、こんな所に敵は来ないよねきっと」
「ああ」
ヴォルカン火山を遠目から確認する。どこに着地すればいいだろうか。
「洞窟でも見えれば楽なのだがな、なかなかそうもいかないか」
ドラゴンが棲んでいた場所だとすれば、出入りに使う洞窟なりがあるはず。
俺たちは目を皿のようにして巣穴らしき場所を探す。
「ねえ、あそこ」
ルシルが俺の腕を抱える。
「どうしたルシル」
ルシルの身体が震えているようにも感じた。
「あのレッドドラゴン、強力な魔導具でも持っていたのかな……。何かあっちの方に邪悪な魔気を感じるの……」
「そうか。ウィブ、あの方向に少し行ってもらえないか。そう、あの一本だけ立っている大木の辺りだ」
「判りましたよ勇者。魔王さんもしっかり捕まっていてくだされよ。速度を落として降下するからのう」
「ああ頼んだ」
ウィブは俺の指定した大木を目指して急降下した。
角度が付いて吹き飛ばされそうになるが、鞍をしっかりと握って身体が離れないようにする。
もちろん腰に綱を架けているので飛ばされるという事はないのだが、それでも身体が後ろへ持って行かれそうになった。
「もうすぐ、こらえてくださいな」
ウィブが小さく羽ばたいて落下の速度を緩める。地面が近づくにつれて羽ばたきも大きくして徐々に止まれるように調整した。
ウィブは後ろ脚を突き出して地面をえぐって着地する。衝撃が俺たちにも伝わってきた。
「はいっ到着しましたよ」
軽妙な口調で俺たちに話しかける。
「ウィブ、着地の時に急降下するの、狙っていただろう?」
「さて、何のことでしょうな」
空とぼけるウィブ。まあいい。こうして乗せてくれたのだから。
「あれか……」
空からではあまり判らなかったがこうして地上に降りてみると、山肌にぽっかりと空いた穴が見えた。
周りの岩や穴の角度が擬装の役目を果たしていたのだろう。
「ルシル、感じるか?」
降り立ってからずっと、ルシルは俺の腕にしがみついていた。
なるほど、これは一筋縄ではいかないだろうな。