大空を翔る
移動はワイバーンに乗って行う。目指す場所は魔晶石が採れるかもしれないヴォルカン火山だ。
「高い……。円の聖櫃の連続掛けで風圧からは守られているものの、この高さはどうにもできないからな……」
「なに、ゼロは怖いの? さっきっから震えているみたいだけど。SSSランクの勇者スキルの温度変化無効は持っているから寒さは影響ないよね」
「寒さで震えている訳じゃないさ。この高さ、俺は初めて経験したけど……楽しいな!」
「でしょ?」
俺は煙じゃあないが、高いところが好きだ。今までいた世界が小さく見える事も面白いし、世界の広さを感じられる事も楽しい。
そりゃあ落ちたら痛いっていうのはあるけど、それは落ちなければいいし落下の打撃なんて勇者の俺にとってはドラゴンの一撃よりも軽いものだ。
「浮遊系の魔法やスキルを持っていないからな、こういうのはワクワクするんだよ」
「私も好きー。どんどん景色が変わるところとか、雲を突き抜けるところとか!」
「だよな、ウィブに乗せてもらってよかったよ!」
俺とルシルは空の旅を楽しんでいた。
空はどこまでも蒼く、大地はどこまでも続いている。
「なんだか不思議だね」
「何がだ?」
ルシルが楽しそうに話しかけてきた。
「地面って平らなのにさ、こうやって高いところから見ると少し丸くなってない?」
「ああ、よく気が付いたな。実はな、大地は平坦じゃなくて大きな球なんだってさ。だからずっと真っ直ぐ進むとまた同じ所へ戻ってくるらしいぞ」
「へぇ! すごい! 私てっきり大地は果てがあって大きな深い崖になっているんだと思ったよー!」
「ははっ、世界の果てがあるなら見てみたいな」
俺は軽く笑ってみせるが、先日研究所の書庫でたまたま読んだ本に書いてあった事の受け売りだ。
「ねえゼロ、一区切り着いたらさ、その大地をぐるっと一周なんてしてみるのもいいね!」
「そうだな。俺も球になっている大地を実際に見た訳ではないからな。こうして高い空から見るとそれも本当だと思えるが……歩いてではなく飛んで世界を巡るのも楽しそうだな」
「うん!」
あまりにも騒がしいものだからウィブが口を挟む。
「お客さん、少々お静かに頼むよ。儂の背で暴れられたりでもしたらかなわんからのう」
「しないしない、ねーゼロ」
「ああ。安全運転で頼むぞ」
「了解」
雲を切り裂き風をかき分け、俺たちは誰にも邪魔をされない空を進む。
「あ、ゼロ!」
「なんだ」
「鳥の群れがいるよ!」
ルシルが見ている方向を俺も覗いてみる。
進行方向左下に、渡り鳥だろうか。群れが矢尻のような形で隊列を成して飛んでいた。
「おお、鳥を下に見るなんて凄いな!」
「ね~。次は用事がなくてもウィブに乗せてもらおうよ」
「それがいい、それがいい」
俺たちのはしゃぎように、ウィブがあきれたようなため息をつく。