身体一つの宣言
俺の意に沿わない女湯への訪問。そんな女湯の至る所で男たちが倒れてうめいている。
バスローブに身を包んだシルヴィアは浴槽の中にいるが、湯船の端の方はお湯は膝下くらいの深さだ。
俺は洗い場で仁王立ちをしている。手は後ろに回され親指同士を紐のような物で縛られていた。
俺の後ろにはソウッテから奪った外套を巻いているルシル。なんとか俺の拘束を取ろうとつまんだりかじったりしてくれているが、まだ切れるには至らない。
「無駄ですよ。その拘束具はオーガでも破壊できない、ドライアードの髪で編まれた結束帯。いくら力が強くても人間の力でそれを千切ることはできませんわ」
シルヴィアは短剣を持って湯船から上がる。温泉の湯がバスローブから滴り落ちていく。
「さあてどうかな。それにしても男の裸は見慣れているのかい」
シルヴィアに恥ずかしがる様子はない。
「ええ。弟ので見慣れておりますのでね、ふふっ」
「弟っていくつだよ、って、どこ見て笑った!」
なんだか変な意味で恥ずかしくなってくる。
「ちょっと、私だってちゃんと見ていないんだから、シルヴィアはあっち向いてよ!」
「ルシル、ちょっと黙っててくれないか」
「だあってぇ!」
「冗談は後にしろ」
「冗談じゃないのに……」
「見ろ、倒れている中にあいつがいないぞ」
ルシルは頬を膨らませるが今はそれに構っている余裕はない。なぜならば。
「ソウッテがいない」
どこを見ても鼻血を出していたソウッテがいない。
「シルヴィア、落ち着け。まずは俺の拘束を取って……」
「いけませんわ、そんなことをしたら監禁されている弟が何をされるか……」
「それはさっきの会話で察している。俺が、弟も君も助ける。だから今は俺の手を自由に」
そして服を着させてくれ。
「それを聞き入れる訳にはいかないなぁ、だろう、女商人よぉ!」
浴場の入り口にまたしても嫌みたらしい声が聞こえる。
「よくもやってくれたなあ反逆者よ。今からその女商人がお前の命も買い取りますってさぁ! ふぇっふぇっふぇ!」
「カ、カイン!」
ソウッテが目隠しをした少年を抱えている。少年の首元をソウッテのカギ爪がつついていた。
シルヴィアがカインと呼んだまだ幼い少年、この子が弟だろう。
「お姉ちゃん? お姉ちゃんなの!」
「カイン! ああ、カイン……」
シルヴィアはこぼれる涙を拭こうともしないでカインの身を案じる。
「汚い真似をしやがる……」
「好きに言うがいいさ、犯罪者には綺麗も汚いもねぇからなぁ! 王国最強、俺たちが正義だぁ!」
ソウッテが笑いながらカインの首をカギ爪で引っ掻く。
首に赤い線がじわりと出て、カインが苦しそうに顔をしかめる。
「女ぁ、このガキの命が大事なら、とっととその露出狂を殺せぇ!」
誰が好き好んで露出しているものか。
ソウッテはカギ爪をカインの喉元に突きつけながらシルヴィアに命令する。
「シルヴィア……」
シルヴィアは澄んだ青い目で俺を見つめていた。
「シルヴィア、これから俺のいうことを聴いてくれ」
「な、何を言っても無駄ですわ。だって、カインが……」
シルヴィアが震える手でナイフを構える。
「いいかシルヴィア、今よりお前は俺のものだ」
俺は高らかに宣言する。
「シルヴィア、お前は俺のものだ!」
【後書きコーナー】
没会話。
「お前は俺のものだ!」
「私が言うのも何ですけど、手を後ろにして全裸で言う台詞ではありませんよね……」
「ほんとお前が言うな。俺だっていろんな意味で恥ずかしい。てかあんまりじろじろ見ないでくれ。お婿にいけなくなっちゃう……」
「いいよゼロ、私がもらってあげるから!」
「お前ら何の話をしてやがんだ……。こっちには人質がいるんだぞ、それをなに楽しそうに、キーッ!」