まもなく離陸します
ワイバーンの背中に鞍を乗せてそこにまたがる。ワイバーンのウィブに乗るのは俺とルシルだ。
ユキネから目的とする魔晶石の特徴を聴いている。
「見分け方も現地で経験を積むしかないが、何とかなるだろう」
「そうだね、ただの水晶なら魔力を充填するとすぐにヒビが入ったり破裂したりするからね、魔晶石じゃないってすぐに判ると思うよ」
「試してみるさ。もし失敗しても割れた水晶は土産に持って帰るさ」
「あまり価値はなさそうだけどね」
軽口を叩きながらユキネが鞄を渡してくれた。中には水や保存食、薬草なども含めた野外生活道具一式が入っている。
「危ないと思ったらすぐ帰ってきていいんだよ。私も魔力放出について研究してみるから」
「それは助かるが、使わずに済むように俺も頑張るよ」
「期待しないで待っているわ」
俺はルシルの手をつかんで鞍の前に座らせる。ルシルが前でその後ろを俺がルシルをかばうような格好でワイバーンの鞍に乗っている状態だ。
シルヴィアとカインが心配そうに見守る。
「振り落とされないでくださいねゼロさん」
「ああ。綱で縛っているから大丈夫だよ。それにウィブがしっかり飛んでくれるさ。なあウィブ?」
俺はウィブの首筋を軽く叩いた。
「それは儂に任せなさい。落とさないようには飛ぶからのう、風と寒さにさえ慣れてもらえればよいだろう」
「そうか、局部的に円の聖櫃で風圧から守るという事もできるな」
「勇者はその魔法を長時間かけられるのかのう?」
「どれだけ続けられるかは判らないからなあ、やってみるのもいいかもしれない」
「儂は心配だのう……」
ウィブの心配をよそに俺はルシルと二人分だけ範囲に入るよう円の聖櫃を発動させた。
魔法は通すが物理的な物は透過しないスキルだ。一定以上の圧力がかかる空気にも抵抗できるといいのだが。
「よし、それでは行ってくるからな、後は頼む」
「いってらっしゃいゼロさん、ルシルちゃん」
シルヴィアに続いてカインも手を振る。
「無事に帰ってきてねルシルちゃん!」
「うん、もっと元気になって帰ってくる! 待っててカイン!」
「うん!」
名残惜しいが今生の別れでもあるまい。
「よし、そろそろ行くか。頼んだぞウィブ」
「承知。それでは……参るとするかのう」
ワイバーンの羽が大きく広がると、上下に動いた羽が風を生み空をつかむ。
足が地面から離されるその一瞬の感覚。
「小さい頃、身体を持ち上げられた時の身体が浮く感じに近いね」
「そんな小さい頃の記憶なんて無いからなあ、高い高いー、って持ち上げるやつだよな」
「そうよ。なんだかその時の浮遊感というのかしら。それを思い出しちゃって」
「そうか……」
俺は少し浮いたところで地上にいるシルヴィアたちに手を振る。
「どうかお気を付けて……」
シルヴィアはハンカチで目を覆う。
「おう、なるべく早く帰るからな!」
「ゼロ様、ルシルちゃん、待ってるねー!」
少年の姿のカインも応援をしてくれる。
「よし行くぞ」
「行ってきます!」
俺とルシルを乗せたワイバーンが地上から少し浮いたところで羽を何度かはためかせると、一気に天高く飛び上がった。
「おお……」
俺の見た光景は、豆粒のような大きさになったエイブモズの町の家々だ。
「高いな……」