ワイバーン解放
魔獣商人の親玉ゲルダが炎を宿した爪で俺を攻撃する。
空振りをしても拳の軌道に沿って炎が湧き上がって視界を遮った。
「なるほどこれは面白いな」
「偉そうに! 遊んでられんのも今のうちだよ! 灼熱の爪はランクこそRだけどこのゲルダの体術が加わればSSランクにも引けをとらないぞっ!」
ゲルダは俊敏な身のこなしで飛び跳ねるように攻撃を行う。
モンスターテイマーと自称していたが、ゲルダは獣の動きもよく体現できているようで、俺が攻撃するそぶりを見せただけで気配を察知して間合いを取ったりもする。
「流石姐さん、奴は大層な剣を持ってやがるがそれすらも抜かせない怒濤の攻撃!」
「すっげぇぜ姐さん!」
ゲルダが爪を様々な方向から繰り出してきた。
「速く、鋭いいい攻撃だ」
俺は剣の柄に手を添える。
ゲルダは俺の間合いに入らないように距離をとる。
「剣だって当たらなければ……!」
「そうかな? Sランクスキル発動、剣撃波!」
俺は神速の衝撃波をゲルダに向けて放った。
覚醒剣グラディエイトを鞘から抜く時の抜刀技だ。
「なっ、きゃあっ!」
ゲルダが衝撃波を受けて吹き飛び、後ろにいたチンピラどもにぶつかって倒れた。
「なんだ、こんな時には女の子らしい声が出るじゃないか」
俺が剣を鞘に納めてゲルダたちの所へ近付く。
「あ……」
剣圧が強すぎたのかゲルダの革の胸当てが破壊されてその奥の服も破れてしまっていた。
その身長と年齢に比べて大きすぎる胸がその破れたところからはみ出している。
「う……うぅん……」
ゲルダの意識が戻ろうとしたところで俺は自分の羽織っていた外套をゲルダに掛けてやり、下敷きになっているチンピラどもから離した所へ座らせた。
「あ、えっと……あれっ!」
「気が付いたか」
「ゲルダ、いったい……」
「俺の剣撃を受けて一瞬気を失っていたのだ。ともかく、これで勝負は着いたな。ウィブは返してもらうぞ」
俺はそれだけ宣言してウィブの檻に向かう。
「だ、大丈夫ですかい姐さん……」
「ちくしょう、あいつ姐さんを……」
「よしな」
「姐さん!」
「いいんだ、あいつが勝負に勝ってゲルダが負けた。約定を守るのは商人の基本だからね……」
「姐さん……」
どうやらゲルダがチンピラどもを押さえたようだ。
仲間内のやりとりを聞き流しながら檻に向かう。
「よし、少し下がっていろウィブ」
俺はワイバーンのウィブが捕らえられている檻の鍵をつまむと、軽くひねって鍵を壊す。
「出てきていいぞ」
檻の扉を開けると、中からウィブがゆっくりと出てくる。
もうドラマタ草の影響は抜けきったようだ。
「ふぅ、ようやく羽を伸ばせるわい」
ウィブが大きく羽を広げて身体を慣らしている。
俺はゲルダたちの方を振り向いた。
「お前たちの商売を邪魔するつもりはないが、俺たちに手を出したらどうなるかこれでよく判っただろう」
ゲルダは羽織っている俺の外套を強く握りしめている。
「行くぞ、余計な時間を使った。支度をしたらすぐにでもヴォルカン火山へ向かう」
「判ったわ」
俺の後にルシルとユキネ、そして戻ってきたウィブが続く。
後ろの方で魔獣商人たちが何か言っているようだがあまり気にしなかったが、ゲルダの一言が不思議と耳に届いた。
「……勇者様」
背筋に冷たい物が走ったような気がする。