灼熱の爪
チンピラどもが俺につかみかかってきた。
ここは共同墓地のためあまり町の人は立ち寄らない。周りにあるのは魔獣商人が捕らえた獣が入っている檻と墓石ばかり。
「どれ、お前たちの本気を見てやろう」
チンピラ三人が俺の手足をつかむ。
つかまれた部分の服が燃えて炎と煙を出す。
「どうだ俺たちのスキル、熱指伝握の威力は!」
「姐さんから使用許可が出てんだ、前みたいに一方的にやられたりはしねぇぞ!」
「ぅあっちぃか!? どーだよ、あっちぃだろ!」
チンピラどもが俺の腕や足をつかんでわめき立てる。
調子に乗って一味を率いているゲルダも発破を掛けてきた。
「鎖も溶かす指の熱さ、とくと味わいな!」
ユキネが心配して声をかけてくる。
「おいあんた、大丈夫なの!?」
心配をしながらも自分にはどうしようもない事態にユキネが歯噛みした。
「心配ない。燃えているのは服だけだ」
俺はSSSランクのパッシブスキル、温度変化無効を所持しているためまったく影響を受けない。
熱いだろうという事は理解しているが、実際に熱さも感じなければ皮膚にも耐性があるため皮膚組織が破壊される事もない。服の燃えた時のすすが身体に付着して黒くなっているだけで俺の身体にはこの熱による傷はまったく付かないのだ。
「なっ、こいつなんで俺らの熱指伝握が効かない!?」
「Sランクのスキルだぞこれ!」
あっけにとられているチンピラどもに足払いをかけると、その場で仰向けにひっくり返ってしまう。
「やれやれ、俺には熱攻撃なんぞ効かんよ。これで判ったろう」
俺は身体に付いているすすをはたいて落とす。素肌にはどこにも火傷は付いていない。
「なんだこいつ、化け物か!?」
「じゃあ女とガキなら!」
チンピラの一人が起き上がるとルシルの方へと向かっていく。
「それは少々困るな……Sランク勇者補正スキル超加速走駆発動!」
俺は瞬間的に移動速度を上げてチンピラとルシルの間に飛び込む。
「なっ、なんて速さだ!」
「Sランクのスキルというものはこういう使い方をするものだ」
俺はチンピラの額をわしづかみにする。
「Nランクスキル雷の矢」
俺の手のひらの中で電撃が炸裂した。当然つかんでいたチンピラの頭に衝撃が伝わり、チンピラは泡を吹いて倒れてしまう。
「なんだ、こいつは俺が指を折った奴じゃないか。二度もやられるとは運のない奴」
倒れているチンピラを蹴り飛ばしてゲルダの前に転がす。
「くっ、ここで引き下がっちゃあ魔獣商人熱指団の名折れだよ! ここはこのゲルダ姐さんが相手になってやる!」
「姐さん!」
倒れたチンピラを介抱しているチンピラたちを後ろにやってゲルダが俺の正面に立つ。
「このゲルダが女だからって手を抜いたりしないよな!?」
「当然だ。俺はいかなる時も一個人として尊重しているぞ。相手に性の区別無しだ」
ゲルダは手袋を装着する。その手袋には爪が付いていて炎が宿っていた。
「姐さんの灼熱の爪が出たぞ!」
「猛獣も爪と炎で飼い慣らしちまう姐さんの拳が出たー!」
チンピラどもが騒ぐ。炎は俺にとって恐れる事はないが爪は面倒だ。
「引っ掻かれたら痛いからな」