魔獣商人熱指団
檻の中の魔獣たちが騒ぎ出す。
「やってくれたなこのムダ巨乳が!」
負けず劣らず胸が大きいゲルダがユキネに罵声を浴びせる。
捕らえられていた魔獣たちは薬で意識をもうろうとさせていたようだが、ユキネの持っていた気付け薬の強烈な覚醒作用で目を覚ましたのだった。
「おいウィブ、お前はどうしたいんだ、今ならしっかり考えられるだろう?」
もう一度呼びかけてみる。
「儂は……勇者と一緒にいれば食いっぱぐれはなさそうだしのう」
ウィブのつぶやきに魔獣商人の親玉であるゲルダが反応した。
「おいワイバーン、こいつよりもっといい奴、そうだ王侯貴族のペットになるという事もできるかもしれねぇぞ!? な、よく考えろ、ほらあの気持ちよくなる草をもう一度嗅いで、な、大人しくなろうよ!」
なだめすかしてみるがやはり檻にとらわれている身としては自由になりたいという本心には逆らえないはずだ。ウィブが魔獣商人の言う通りにする事はない、そう俺は信じている。
「ペットも悪くない、かねえ」
おいおい。
「飲まず食わずの生活からは抜け出せる。飼われるのもいいかもねえ」
「でしょー!」
仕方がない、こうなればこの手は使いたくなかったのだが。
「誰に飼われるか判らないという事は、確実な生活保障も判らない訳だ。いくら商人が約束したとしても、それを買った貴族たちが守る必要は無い」
「そこはほら、ゲルダたちが斡旋すっからさ!」
「だが確実ではない」
俺の言葉に揺れているのか。
「うーん、言われてみればそうだよねえ」
「自分の事なのにのんびりだな。まだ薬が抜けきっていないのか」
「だ、だが、だったら」
ゲルダが食い下がる。その顔に焦りの色が浮かぶ。
「ここにいるうちの商品を檻から出すってんなら、適正な金額を出してくれたら考えようじゃあないか。そうさ、そうだよ、あんたが買ってくれたらいいんだ、そうしたら丸く……」
俺はゲルダをにらみつけた。
「盗人猛々しいとはよく言ったもんだ。人の厩から薬を使って盗み出した奴が真っ当な商売をできると思うなよ!」
俺の威圧にゲルダが後ずさる。
「くっそう、こうなりゃヤケだ! おいおめーら、あいつらをやっつけちまえ!」
「えっ、でも姐さん、奴の力は相当で……」
「なんだい情けないねぇ、あんな野郎にビビっちまって、おめーらタマキン付いてんのかよ!」
「こらこら、女の子が下品な言葉を使ってはいけないな」
まったく、どういう生活をしていたのやら。
「これをお前たちに使う許可を与える!」
ゲルダは親指と中指で指を鳴らして身構えると、チンピラ三人組も同様に指を鳴らす。
「おっほ!」
鳴らした親指と中指のの間に火花が散る。
「覚悟はできてんだろーなー、あ、にいちゃんよぅ」
チンピラの一人が俺の腕をつかむ。
つかまれた所の服から煙が立ち、炎が燃え上がる。
「俺たちの指は高温を出せるんだぜ。握った鎖も溶けるくらいになぁ!」
俺は腕を引っ込めると火の付いた袖を破って捨てた。
「面白いじゃないか。魔獣商人を辞めて手品師にでも転向した方が似合っているぞ」
「ほざけ、俺たちの手熱い対応をせいぜい楽しむんだな!」
チンピラたちは真っ赤に焼けた手を前に出して向かってくる。