モンスターテイマーの姐御
森で拾った少女がなぜこんな所に。しかもチンピラたちを従えて。
「よぉ来たな。このモンスターテイマー、ゲルダ姐さんのとこへよぉ!」
「ゲルダ姐さん? 俺より年下にしか見えないが」
幼い顔でルシル程ではないが背も低い。アンバランスなのは大きな胸というところか。
俺が品定めみたいな視線を送っていると、チンピラが息巻いて割り込んでくる。
「んだあ、姐さんは先代の頭の跡を継いでこの魔獣商人をやってんだぞ! ナリはちっさくても大商人の看板背負ってんだぞ、あぁん!?」
なんだかすごく眉間にしわを寄せて下から突き上げるようににらみつけてきた。
「おいやっちゃえ、奴びびってんぞ!」
他のチンピラがはやしたてる。
「別に相手をしてやってもいいんだが俺は基本的に面倒事は嫌いなんでね。争いにならない程度の話し合いで済むなら大歓迎だぞ」
「なにぬるい事言ってんだ!」
「それともまた拳を潰されたいか?」
「ひっ」
チンピラは前に指の骨を折られている事を思い出したのだろう。どうやら治癒魔法はかけてもらっているようだったが。
「俺はそこのワイバーンを返してもらえればそれでいいんだ。これから行かなければならない所があってな、そいつがいると助かるんだが」
「ワイバーン? ああ、このドラゴン崩れの飛竜の事かい」
ゲルダは足でワイバーンのウィブが捕らえられた檻を蹴る。
だが檻の中のウィブは特に気にする様子もなく寝転がっていた。
「ちょっとあんた、ドラマタ草を使うなんて卑怯よ!」
ルシルがゲルダの行為を非難する。
「何よゲルダの獲物を横取りしといてよく言うわね!」
「何が横取りよ、巨大猪に食われそうになって倒れていたくせに!」
「あれはワイバーンの餌にしようと猪狩りをしていただけよ! それに猪は人を食ったりしないわ!」
食べ物を持っていたりすると襲ってくる事もあるけどな。
それはさておき、ここで言い争いをしてもらちがあかないだろう。
「おい、ウィブ起きろ!」
「ほわ、はぁ……なんだ勇者……」
俺は檻の中のウィブに呼びかけてみる。
「気をしっかり持て。さもないとこのままでは薬漬けにされて売り飛ばされるぞ」
「ふわぁ……。めんどくさい……」
「駄目だ、もうドラマタ草の匂いで思考が緩くなってしまっているぞ……」
俺もルシルも毒抜きの神聖魔法は使えない。
「ユキネ、気付け薬とかそういう物は持っていないか?」
「無くはないけど、ワイバーンに効くかなあ」
ユキネが懐から何やら小さなビンを取り出して檻に近付こうとする。
「ちょっとあんた何しようとしてんのよ! 檻に近寄んないでよ!」
ゲルダが体当たりでユキネを止めた。
「わっ、ちょ!」
ユキネがゲルダに飛ばされて倒れた拍子にビンの中を辺りにばらまいてしまう。
「くっ、この匂いは……!」
気付け薬の強烈な鼻に突き刺さるような匂いが辺りに充満する。