檻の中のとろんとした奴
隠蔽工作をしようとは試みたのだろう、ウィブを引きずった跡を消そうとしていた跡も残っていた。
「それでもこの残り香、ドラマタ草の匂いがかすかだが残っているな」
俺はドラマタ草の匂いを頼りに薄くなった痕跡を追う。
痕跡はユキネの教えてくれた共同墓地へ向かっている。通りを進むと人並みも減って段々と寂れた雰囲気になっていく。
「町を出ない内に決着できたらいいんだがな」
俺は独り言を漏らしながら慎重に進んでいく。
俺の後にはルシルとユキネが付いてきている。シルヴィアたちは研究所で留守番をしている。
「そういえばあの助けた村娘はいなかったみたいだが、あの子はどうしたかな」
「いつのまにいなくなっていたけど」
「そうか」
巨大猪ダエオドンの所で倒れていた少女は気を失っていたようだったのでひとまず町まで連れてきて介抱していた。レッドドラゴン騒ぎで忘れていたが、回復したのであれば家に帰してやらなければな。
そんな事を考えながらも、地面の跡と残り香をたどって通りを進んでいく。
「ここよ、共同墓地」
昼間でも周りの木々が日の光を遮っているためか、薄暗く湿度も高い気がする。
「夜中には訪れたくない雰囲気だな」
「そう? 私は好きよこういう静かなところ」
喰らう者であるユキネならともかくルシルまでもこの暗く湿った場所がいいと言う。
人それぞれだが。
「あれか」
墓地に入って少し行くとあからさまに怪しい柵が立っていた。
柵の板には隙間があり奥が覗ける。
「檻……か。いろいろな動物が檻に入っているようだな」
見ると様々な種類の魔獣や猛獣が檻に入っているが、どれも酔って寝ているような表情をしていた。
「あ、ゼロあそこ」
俺と一緒に板の隙間から覗いていたルシルが指さした先には、もう見慣れたワイバーンの姿が。
ウィブだ。
翼を畳んで檻の中で丸くなっている。
他の動物と同じように、起きてはいるのだろうが心ここにあらずといった様子だ。
「どうするゼロ?」
「どうするもこうするも、こうだ!」
俺は柵を思いきり蹴飛ばす。
俺の一蹴りで柵が木片と化し、倒れ、散らばる。
「俺を遮る物はもう無いからな」
俺は柵の内側に足を踏み入れた。
その時だった。檻の影から声がする。
「んだぁごらぁ、なんしゃったっちゃあおらあ!」
どこかで聞いた事あるような不明瞭な怒鳴り声が聞こえた。
「なんだ祭りのチンピラかと思ったら魔獣の誘拐犯だったか」
見た事のある三人のチンピラが檻の影から出てくる。
そしてもう一人、チンピラに比べると小さい人影。
「姐さん、こいつっすよ俺らをこんなしゃったのは!」
「うっさい、黙ってな! おめーは何しゃべってんのかわっかんねーんだよ!」
小さい人影がチンピラの一人の頬を平手打ちする。
「っしゃあせん、姐さん!」
チンピラが深く頭を下げた。視界を遮る物がなくなり小さい人影の顔が見える。
「あ! お前!」
そこにいたのは、巨大猪の所にいた村娘の服装をした胸の大きな少女だった。