ドラマタ草とアロマチェイサー
ワイバーンのウィブが行方不明になった。
俺たちの間に走った衝撃は小さいものではない。ヴォルカン火山へ行くにはウィブの協力に期待するところが大きかったからだ。
俺たちはウィブがつながれていた厩で状況を整理している。
「敵感知では判らないわよね」
ユキネは腕を組んで考える。組んだ腕の上に大きな胸が強調されて乗っていた。
ルシルがスキルの説明で俺をかばう。
「ゼロの敵感知は、ゼロに向かってくる敵意を検知するスキルだから」
「別に勇者を疑っている訳じゃないのよ。私だって自分の研究所で起きた事に気付かなかったんだもの」
ばつが悪そうに言い訳をするユキネ。
「いいさ思った事や気になった事はどんどん発言して欲しい。何が起こっているのか俺も判らん。だがウィブがいないという事実は変わらない。だから何か手がかりになるようなものが見つかれば」
俺は片膝をついて地面を触る。
厩は土で固めた床に藁を敷いてある状態だ。鉄の鎖が溶けた程の高温だというのに藁に焦げ目も付いていないのは先に確認した。
「藁はそれ程新しいものではないか」
「厩の管理人はそろそろ交換をしようと思っていたみたいだけど連日の騒ぎでなかなか手が付かなかったみたい」
「そうか。足跡や轍も新しいのか古いのかもよく判らないな。この引きずった跡は新しいようだが、ウィブを連れ去った時にできた跡か……?」
思いものを引きずったような跡が出口まで続いている。ワイバーンの爪の跡は残っていないと言うところでは抵抗する意思はなかったのか。
「だとすると意識が無かったのか。ウィブが歩いて出たようにも見えないからな」
ドラゴンに比べれば小型で軽量なワイバーンとはいえそれなりの大きさと重量がある。
子供を担いで立ち去るのとは訳が違う。
「気が付かなかったが、この藁少し湿っている……?」
「え、あ。本当だね、それにちょっと。何だろうこの匂い……これ、ドラマタ草の匂いに近いよ」
「ドラマタ草ってなんだルシル。聞いた事がないが」
「えっとね、ドラマタ草っていうのは魔界でも辺境に少しだけ自生する希少な草の一種なんだけど、ドラゴンのマタタビとも言われる香草なの」
「ドラゴンのマタタビ……。脱力してしまうのか。だとすれば引きずられていったとしても理解できるか」
ただ俺ならばともかく、誰がワイバーンを持ち運べるというのか。
「外、通りにも何か重たいものを引きずった跡があります!」
シルヴィアが厩の外の状況を教えてくれる。
それにこの独特な香り。集中すればなんとなく漂っている匂いが判った。
「この先、通りのこの先に続いていそうだ。ユキネ、この先でワイバーンを置いておけそうな広い場所はあるか?」
「その先は、エイブモズの町の共同墓地があるわ」
俺たちはウィブを引きずった跡を追って通りを進む。