酔いが覚めて夢から覚めて
酔いどれたちが慌てる。
それも無理はないだろう。チンピラの拳は俺に握られたまま、身動きも取れない。
俺はチンピラをにらみつけながらユキネにたずねる。
「ユキネ、お前の事を知らないみたいだがこいつらも町の連中か? お前もそこそこ有名人かと思ったんだが」
「そんな有名でもないわよ。立場上、研究者や兵士とは知り合いが多いけどね。一般の人たちを全て把握している訳でもないもの」
「それはそうか。こいつらは血気盛んなところを見ると喰らう者という感じもしないがな」
「どうかしらね」
俺はチンピラたちに向かって酷薄な笑みを浮かべてみせた。
「や、やっちゃえ!」
「お、おう」
三人のチンピラの内残りの二人が間合いを詰めてくる。
「そう言えば指を鳴らすのが得意らしいな。どれ」
俺はつかんでいる手に力を加えた。
「ぐぎゃぁ!」
俺に拳をつかまれているチンピラの指が鳴り、チンピラの叫び声が上がる。
「ほうら、いっぱい指が鳴ったろう!」
俺はチンピラを放り投げると、迫ってきた二人を巻き込んで三人仲良くゴミ捨て場に飛んでいった。
「しっかりと治療してもらうんだな。綺麗に折ったから不自由なく回復できるだろう」
以前ユキネに聞いていた事を思い出す。
「あ、お前たちが喰らう者だったら回復はできないんだっけな。それならそれで、諦めて新しい手に移植でもするんだな。お前たちが人間なのか喰らう者なのかはどうでもいい事だが」
酔った勢いとはいえ俺も大人げない事をした。まあ俺はまだ子供だけど。
「大丈夫か」
「別にどうという事もないけど、変なのに絡まれたのはあんたの方だけどさ」
「まあな」
少し面倒事が起きながらも、宴会の夜は過ぎていく。
翌日、宿屋代わりに使わせてもらった研究所で寝ていると、何やら外が騒がしくて目が覚めた。
「なんだまだ起きるには早い時間だと思うが……」
急いで身支度を調えると研究所を出て騒ぎの中心に向かう。
「ゼロ! 見てよこれ!」
ルシルが慌てて俺に駆け寄ってくる。
「これって……あれ? ウィブはどうした?」
「どうしたもこうしたも……」
借りていた厩に留めていたウィブの鎖、その先にワイバーンのウィブがいなかった。
「いつのまに……。それにウィブは人間の言葉も話せるワイバーンだ。物音を立てずに忽然と消えるなどと……。血痕や争った形跡はないが……」
床に転がっている鎖を拾い上げる。一方は厩の柱にくくりつけてあったが、ウィブをつなぎ止めている側が切れていて鎖の先が溶けていた。
「この鎖を見ろ、高熱で溶かされているようだ」
「ほんとだ……」
俺の声に集まっている者たちも驚きを隠せなかった。
「だが、厩のどこにも焼けた跡がない。これだけの高熱となるとウィブにも影響があるはずだ」
「それって……」
「いいかルシル、厩につないでいる鎖はウィブの首輪につながっていた。残っているのがこの長さとするとウィブの首からそれ程離れていない所だ。そんな位置で鎖を溶かす程の高熱を発していたら?」
「ウィブだって熱いよね……あ」
「そうだ。魔法か何か、熱で鎖を溶かせるくらいの高音が近くにあったはずなのに、ウィブは騒ぎもしないで連れ去られている」
俺はひとしきり考えると、いくつかの可能性をルシルに話す。
「考えたくはないが、ウィブが騒ぎを起こせなかったか、起こさなかったか」
「我慢していたのか反応ができなかったか、という事ね」
「ああ。俺としてはウィブが意図的にやった事ではないと思いたいが、そうなるとウィブが無事でいる可能性も低いと思える。いずれにしてもウィブを見つけない事には」
レッドドラゴンが棲んでいたというヴォルカン火山、そこにあるだろう魔晶石を探しに行けない。