酔っ払って酔いを払って
大宴会はこのところ沈み込んでいた町の雰囲気を一変させた。
魔晶石に蓄えられていた魔力を使って町の灯りが夜の暗闇を遠ざける。
昼間のような明るさと賑やかさに、町の人たちも一時的かもしれないが活気を取り戻したように思えた。
「喰らう者でも味覚とかは機能しているんだよな?」
俺はユキネにたずねてみる。
「そうね、生前の感覚とは少し違うかな」
「と言うと?」
「生きている頃は直接脳に信号が行くけど、喰らう者になってからは一旦脳で処理された情報が魂に伝達される、といった所かな。少し感覚が伝わる間隔が遅いというか、一枚の布を隔てて感じているというか」
「手袋しながら物に触れている感じに近いのかな?」
「うん、まあそんな感じかもしれないわね」
ユキネの説明を聞いてなんとなく理解する。やはり人間と喰らう者ではいろいろなものが異なるのだろう。
「でも、こういうお祭り騒ぎは好きよ」
ユキネが俺の隣に寄ってきて耳元でささやく。
「少し酔ってしまったみたいね」
「喰らう者でも酒に酔うのか」
「感覚は鈍いけどしっかり伝わるものよ」
ユキネは俺の腕に抱きつくと、その大きな胸を押しつけてくる。
「感度は、いいかもね。試してみたくない?」
妖艶な唇が焚き火の光を受けてなまめかしく映る。
「ちょっと悪酔いしているな」
「悪い酔いなんて酔っているんだから良い酔いでしょー」
ユキネの吐息にアルコールの匂いがした。
「私が食べるんじゃなくてさ、あんたが食べてみるのもいいんじゃない?」
ユキネの唇が少しだけ開く。その状態で俺の方へと向かってきた。
「おいおいおい、宴会とはいえ往来でいちゃつくとは、善良な市民の俺たちにしてみたら目の保養、じゃねえ、目の毒、気の毒ってもんじゃねえかよぉ!」
「おらおら~」
何人かのチンピラが俺の事をにらみつける。
「毎日の鬱憤が溜まっているのだろうが、それを他人に吐き出そうというのは褒められたものではないな」
「うっせぇぞあんちゃん、その乳のでけえ姉ちゃんを置いてとっとと消えな! 今なら拳骨の一発や二発で済ませてやるからよ!」
チンピラの一人が指を鳴らして近付いてきた。
「調子こいてんじゃねーぞこら! おぅ!」
「あぁん、ってぇえぁらっしゃあぁぞ!」
なんだこいつら、ろれつが回っていないどころか何を言っているのか判らない奴もいるぞ。
「面倒くさいのが三人か。なあユキネ、こういう奴は懲らしめていいんだよな?」
「別に私が町の住人全部を面倒見ている訳じゃないからね、好きにしたらいいよ」
しらけたせいか、ため息をついてユキネは俺から離れる。
そんなユキネを後ろにして、俺がチンピラ三人の前に出た。
「なんだあんちゃん、やろってのか?」
「面倒事は嫌いだ。疲れるからな。だが、降りかかる火の粉は払わなければならないだろう?」
「んだとごらぁ!」
チンピラの一人が勢いよくパンチを繰り出してくる。
「ほえっ!?」
その拳を俺が容易くつかんでしまうと、チンピラは度肝を抜かれたように馬鹿面をさらした。