旅のお供に干し肉作り
俺たちは何度か荷馬車を往復させて、倒したレッドドラゴンを全てエイブモズの町へ持ち帰った。
研究用素材として、ユキネには竜の爪や牙、骨、鱗などを研究所の職員へ渡す。
「こんなにいろいろもらっちゃっていいの?」
「いいさ、どうせ全部は運べないし、商品にできるやつもたくさんあるからな。それにピカトリスのゾンビ騒ぎの事もある。復興に少しでも役立ててくれば俺も嬉しい」
「そう、それなら遠慮なく」
研究に使うもよし、売って復興に使うでもよし。ドラゴンの素材はその価値も含めて使い道は幅広い。
ユキネたち学術都市の人たちの研究にはこうした希少な素材も必要だったりするらしいからな。
「買うと結構な出費になるからね、本当に助かるよ」
ユキネは嬉しそうに素材をしまっていく。
「ルシル、俺たちは俺たちでドラゴンステーキを作ろうか」
「うん。あとさ、生肉は取っておいた方がいいかなって思って」
「生肉? 俺の凍晶柱の撃弾で凍った肉もそろそろ溶け始めているとは思うが、もしかして」
「そう、喰らう者の人たちに」
喰らう者は動く死体の一つの形態だが、それを維持しなおかつ生きている人を襲わないようにするために、牧畜をして新鮮な生肉を用意しているという話だったな。
「そうだな、肉はかなりの量がある。喰らう者たちと一緒に食べてもまだ結構残るだろうからな。そうとなれば今日は宴会だ、町を上げての大宴会にしよう!」
こうしてエイブモズの町を挙げての大宴会が始まった。
日も高いうちから町の人が思い思いの料理を持ってきて集まる。
「ゼロは何を作っているの?」
「これか? まあ見てな」
俺は網の上に置いたドラゴンの肉に向かって手をかざす。
肉は繊維に沿って小さく切ってある。
「Sランクスキル発動、風炎陣の舞!」
俺の両手から風に乗った炎が噴き出した。
炎は網の下をくぐって抜けていく。
「こうすることで、熱と風でより早く肉を乾燥させることができるのさ」
「何日も干さなくていいの?」
「複合魔法は高威力になりがちだが、そこはドラゴンの肉体だけあるな。簡単には焦げないからこそできる無茶なやり方だと思うがね」
そう話しながらも熱風を放射し続ける。
調味汁に浸けた肉の汁気が抜けていくと同時に辺りに肉のあぶられる匂いと浸けダレの香ばしい匂いが重なって広がった。
「おお、うまそうな匂いがする!」
「あ~腹減った~」
祭りに集まってきた人々も注目する。
「お、隣で肉を焼き始めているぞ」
「こっちもうまそうだな~」
俺の隣のかまどではシルヴィアが熱した鉄板でステーキを焼いていた。
肉の焼ける匂いと脂の弾ける音が食欲をそそる。
「そっちもうまそうだな」
「ゼロさんもおひとつどうですか?」
「だが、俺は今干し肉を作っているからな、手が空かないのだよ。後ででよければもらうから」
「あらそれは残念です。でしたら……」
シルヴィアは今焼いている肉をカインたちに任せて、焼き上がった肉をナイフで切り分け皿に盛る。
「さ、どうぞ」
シルヴィアが一口サイズに切った肉をフォークですくって俺の口元へ持ってきた。
「はい、あ~ん」
「どれどれ……うん、うまい! やっぱり焼き上がってすぐというのもあるが、ドラゴンの肉は赤身がしっかりしていて、繊維が柔らかいから簡単に口の中でほぐれていくな。それにこの脂身がまた甘さを引き出している。濃厚なはずなのに口に入れるとさらっと溶けていくような感じもして、これならいくらでも食べられそうだ!」
「よかった、喜んでもらえて」
シルヴィアの嬉しそうな顔がまぶしい。
「ねえねえ、これも食べてよゼロ」
「こっちも食べて欲しいにゃ~!」
ルシルと月を見て猫耳娘になったカインが一緒に皿に盛った肉を持ってくる。
「ほら二人とも、ゼロさんの干し肉作りのお邪魔になってはいけませんからね、あちらでいただきましょう」
「え~、お姉ちゃんばっかりずるいにゃ~」
「ゼロ~、私のも、あ~ん!」
二人ともシルヴィアに襟首を捕まれて連れて行かれてしまう。
「もう少ししたら干し肉作りもおしまいにするかな。あとは夜中に干しておいて……と。まだ焼き肉残っているかなあ」
広間の方では大宴会がもう始まっていた。