ドラゴン襲来
「ドラゴンが、ドラゴンが暴れています!」
突然入ってきた兵士の報告に場の空気が緊迫したものへと変わった。
「まさかウィブが……」
「恐らくは……」
俺は急いで研究所の外へ出ると、空を見上げる。
太陽の光を遮る大きな影がそこにはあった。
「あれは……炎を吐く暴竜レッドドラゴンか。やはりウィブを狙ってきたな」
俺の後にルシルたちも出てくる。
俺の予想は悪い方向で当たった訳だ。
「きっとあのドラゴンの領土を通過したとか、獲物を奪ったとかなのだろうな。ドラゴンは縄張り意識が強いから残った匂いだけでも判るのだろう。よそ者の存在が許せないなのだな、きっと」
俺は鎖でつながれているワイバーンのウィブを見た。ワイバーンとドラゴンだ。それに加えてドラゴンの上でも凶暴さにおいては別格とも噂されているレッドドラゴン。あからさまにウィブが萎縮しているようにも見える。
「おいウィブ、お前あのレッドドラゴンの気に触るようなことをしたのか?」
「いや、儂には覚えがないのだが」
そう言いながらも視線はあらぬ方向に行っていた。
白々しい。
「嘘をついてもどうにもならないからな」
俺は恨み言を吐き捨てながらウィブの鎖を外す。
そんな時だった。レッドドラゴンが滞空しながら俺たちを見下ろしていた。
「そこにいるはドラゴンの血脈にありながらもその卑小さによって一族より放逐されし系列のワイバーンではないか。ようやくと見つけたぞ」
レッドドラゴンは唸り声を上げるが、その音に乗って言葉が頭に直接意味として伝わってくる。
意思伝達能力みたいなものだ。
「そ、それが如何した、赤き竜よ。そなたらの卑下する矮小な儂を嘲りに来たか」
ウィブがどうにかレッドドラゴンに抵抗しようとするが俺はそれを制止しようとした。
「よせ、お前ではレッドドラゴンには敵わないぞ」
「勇者よ、思い起こせば儂はあのドラゴンの領土に踏み入った。それは確かだ、済まぬと思う。だが、儂はあの赤き竜の獲物は奪っておらん」
「本当か?」
「おお、本当だとも。ドラゴンの敷地内では腹が減った時に牛や鹿を数頭食ったくらいだ」
「馬鹿野郎、それだよ!」
俺はワイバーンの頭を拳で叩く。傷こそ負わないものの、ワイバーンのウィブはうなだれてしまった。
「ゼロ、どうするのこれ」
ルシルが心配そうに俺を見る。
「いいだろう。おいそこのレッドドラゴン!」
俺の呼びかけに赤い暴竜が滞空しながら俺を見た。
思ったよりもかなりの威圧感だ。ワイバーンのウィブよりも一回り二回りは大きいだろうか。成体のドラゴンの存在感は相当だ。
「如何にした人間よ。よもや佞言にて我を籠絡せしめるとでも申すか」
ドラゴンが嘲笑したようにも見えた。
「まさかな。なぜ俺がお前ごときに媚びへつらう必要があるというのだ」
俺はウィブの背にまたがるとウィブの腹を強く蹴った。
ワイバーンが大きく羽ばたくと俺の身体に浮揚する感覚が宿る。
「勇者よ、儂にこのレッドドラゴンと戦えと言うのか」
「それともこのまま奴に食われる事を望むのか?」
ウィブは空に舞い上がりながら返事をした。
もうその気持ちに迷いは無くなっている。
「いいだろう、儂もドラゴンに勝てるなら勇者よ、お前に力を貸そう!」