外部保管装置の魔晶石
ユキネが教えてくれた魔晶石の存在。
純粋な研究者や魔法使いが近くにいなかったせいか、話には聴いた事があったものの実物や使い方についてはまったく知らなかった。
「まあね、あんたやルシルちゃんみたいに魔力量が多い人たちにはあまり関係がなかったんでしょうけど、魔力を溜めておこうなんて発想そのものがね」
「むむ、確かに余程の事がない限りは魔力の枯渇なんて事は早々起こらないが」
「でも普通の人たちはそうじゃないのよ。自分の魔力量では足りないから外部からの魔力供給を受けて実験をしたり高度な魔法を使ったりするの。この魔晶石はその材料って訳」
俺は一つ手にして窓から入る光で透かしてみる。
太陽の光が反射して綺麗な虹が架かって見えた。
「それで、こっちが魔力を充填した魔晶石よ」
ユキネがもう一つ取り出した宝石の塊。紫色に染まった宝石は、その中心部に行けば行く程黒くなっているように見える。一番中心にある部分は闇の中でも不思議に光る点があって、その光の点を中心に闇が渦を巻いているようだった。
「石の中で何か力が渦巻いているような……これが魔力、か?」
「そうね、おおよそ正解。純粋な魔力は目に見えないけれど魔晶石に取り込まれた魔力はその力の端の方が人間の可視光の範囲に入るようで、要するに魔力が目に見えるようになるのよ」
「へぇ」
ユキネが大きめで透明な魔晶石を選んで、それをルシルに手渡す。
「深い事を考える必要は無いのだけれど、ちょっとこれを持って自分の力を石に閉じ込めるように思念を送ってみて」
「これに?」
「そうよ」
ルシルは魔晶石を見つめ、念じているようだった。
徐々に魔晶石の透明度が下がっていき、中に黒い闇の渦ができはじめる。
「凄い、こんな簡単に魔力を充填させる事ができるなんて流石はルシルちゃん、魔王の能力が無いと言っても魔力操作はお手のものね」
「い、いえ……」
ルシルが少しふらついた。
「おい大丈夫かルシル」
「うん、ちょっと目眩がしただけだから」
魔晶石が黒く染まり、その中心部に核となる光が灯る。
「わぁ……」
「どうしたユキネ」
「見てよこの純度の高さ! 通常の魔晶石はここにある奴みたいに中心から外れる程紫色がかってくるの。色が薄くなるのよ。でもこのルシルちゃんが入れた奴」
漆黒の闇でも詰め込んだのか、真っ黒な塊になっていた。
だがその中心の光は見える、不思議な物体だ。
「濃度が高いとどんどん色も濃くなっていくの。これだとかなりの質と量ね」
「ちょっと失礼」
シルヴィアがルシルの作った魔晶石を借りて確認する。
「この濃度では市場崩壊してしまいますね。他の、そうですね、この紫色の魔晶石、これであれば少し珍しい魔術用具を扱うお店でも見かけますが、それでもかなりの金額を要します」
「それがこの純度で濃度だと」
「はい、買い手がつかない程高いか、値を下げたら他の魔晶石が売れなくなるくらいの影響があるでしょうね」
「そうか、下手に商売はできそうもないな。それにこの空の魔晶石、それも確保する必要が出てくるだろうし」
ルシルが魔晶石を手にしながらユキネに尋ねる。
「この魔晶石ってどう使うの?」
「これはね魔力変換器具がいるのだけれど、それを使う事で魔力を他の機械に送る事ができるの」
「魔力変換器具……」
「このエイブモズの町の街灯とかにも使われていたりするわ。常に魔力供給できる訳ではないから非常時だけの補助灯としての役割だけどね」
「そんな使い方もできるのか。便利だな魔晶石……」
これをいろいろな町に導入できれば、かなり生活様式も変わって便利になるんだろうな。
そんな事を考えていたところだった。
「ユキネさん、外のドラゴンが!」
町の兵士が慌てて駆け込んできたのだ。