空の足にまたがりたい
ワイバーンが強さに屈するという点では判りやすい。より強い者に従うという動物的観点から見て弱肉強食は当然の摂理だ。
だからこそ俺の攻撃を受けて勝てないと思った時点でワイバーンの思考は停止した。
「さあ人間、儂をどうするつもりだ」
「負けたくせに偉そうだな」
俺は腕を組んでワイバーンをにらむとワイバーンは少し萎縮するようなそぶりを見せる。
「仕方ないよゼロ、ワイバーンはあまり人間の共通語は使い慣れていないから、いつも通りの言葉くらいしかできないんだよ」
「そうなのか。これじゃあ宮仕えはできないな」
俺も前は王国に仕える衛士だったからな、言葉の使い方とかはかなり叩き込まれたものだが。
相手がワイバーンでは人語を話せるだけたいしたものだという事なのだろう。
「言葉遣いは仕方がないか。よしワイバーン」
「なんだ、猪の事か」
「あ、うむ、それもあるのだがな、もしかしてお前、腹が減っているのか?」
言われて気付いたのか、ワイバーンの腹の虫が豪快に鳴った。
「別に俺たちは狩りに来ていた訳ではないから獲物はどうでもいいのだが」
「だったら持って行くのほっとけばよかったのに」
ルシルが茶々を入れる。
自分から捨てるのならまだいいが、勝手に持ち去られるのはなんだか気分がよくなかったというだけだ。
器が小さいとか思われるのも何だが。
「猪はそこに倒れていたから儂がもらおうと思ったのだ。木にでも突っ込んで気絶でもしたのだろう?」
「その前の俺との戦いは見ていなかったのか?」
「見てはいたが、あれは戦いではなかったぞ。一回剣を交わしたかもしれないがその後この猪が勝手に木にぶつかっただけだと思ったわい」
空からだったらそう見えたのかなあ。
「ともかくだ、その巨大猪は食いたければ食っていいぞ」
「本当か人間! それはいいな」
「だが一つだけ条件がある」
「なんだ」
返事をしながらももう食らい付いていたのか。
ワイバーンは俺の放ったSランクの剣士スキル、剣撃波で真っ二つに斬り割かれたダエオドンの半身にかじりついていた。
「お前俺の配下になれ」
ヒポグリフが空路でユキネたちを連れて行った事を見て、俺も行動の幅を広げるためにも空は必要だと感じていたのだ。
餌付けではないがこうして命令を聞く空の足ができれば何かと便利になるだろう。
「どうだ?」
「いいぞ」
思いのほか即答だった。
考えてみればワイバーンは思考が苦手というか、そもそも考えるように頭ができていないみたいだ。
それだけに答えは単純明快、生きているか、楽しんでいるか。
「ルシル、いいかあれを」
「大丈夫? ゼロの配下なんでしょ、私のじゃなく」
「構わないさ。SSSランクスキルに匹敵する魔王の能力、大罪の清算を使って魂に約定を刻み込んでもらいたい」
「判ったわ、やってみる……」
ルシルはワイバーンに盟約を結ばせようとするが、ふと動きを止めて俺の方を見る。
「ゼロ、大罪の清算が使えなくなっちゃったよ」
「おかしいな、前にヒルジャイアントのドッシュたちに使った時は……」
「できていたね」
「そうだよな」
体力的には大怪我が回復したばかりで辛そうなのは判るが、魔力は別段枯渇している訳でもない。違いがあるとすれば……。
「角か!」
俺はレイラに奪われたルシルの角が、魔王の能力を操るためには必要なのではないか。
薄々は感じていたが恐らく間違いはないだろう。