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王国の猟犬

 シルヴィアはバスローブの合わせの部分を胸に寄せ、侵入してきた男たちの後ろに下がる。


「ソウッテ様、これで、これでよろしいのですよね」


 少し声が震えている。シルヴィアから先程の威勢のよさが消えていた。


「商人よでかしたぞう! 皆の者、こやつが王国に反旗をひるがえす大罪人であるっ! ひっ捕らえて裁きを受けさせよ!」


 出てきた男、前に片腕を切り落として追い払った奴、ソウッテだ。

 頬はこけ、目の下に隈がくっきりと現れている姿は病的にも見える。

 ソウッテは失った腕の代わりにカギ爪を付けていた。そのカギ爪が俺を指す。その動きに従って兵士たちが俺の方へ向かってきた。

 俺は後ろ手に縛られているし何より全裸だ。暗器なんかは隠し持っていないから文字通りの徒手空拳。


「こんなところにまで追ってくるとはな、ご苦労なことだ」

「このソウッテ様はどこまでも追いかける、王国の敵を打ち滅ぼすまではなぁ!」

「だったら魔王も倒してくれたら俺はこんな苦労せずに済んだだろうさ」

「魔王はそこの小娘だろうがぁ! 討伐したなどと王国をたばかりやがって!」


 ルシルが魔王であると宣言したその場にソウッテがいた。加えて魔界の青い炎に焼かれてもいるため、魔王の恐怖は十分感じているはずだ。


「昔の人間界を荒らし回っていた魔王はもういない。今いるのは魔王の残滓ざんし、力を封印されたただの女の子だよ」

「なぁにが女の子だ、このエセ勇者めっ! あの場でおとなしくしておれば、罪人つみびととして捕らえて服役させ、真っ当な人間に更生させてやろうと思ったが」

「ほほう、それも悪くないな」

「だがお前は駄目だ」


 そう言うとソウッテは右手のカギ爪で左手に持った短剣を砥ぐ。


「この右手が疼くんだよぅ! お前を八つ裂きにしてやりてぇってなぁ!」


 病的に目をギラつかせてソウッテが洗面器やら椅子やらを蹴ったかと思うと、急に落ち着いて深呼吸をする。


「はぁ……。捕らえろ」


 戦闘開始の合図がソウッテから放たれる。

 共に入ってきた男たちは剣や斧を持って迫ってくる。言葉とは裏腹に俺を捕らえる気は毛頭なさそうだ。


「ソウッテ様、これで弟は、弟は解放していただけるのですよね」


 シルヴィアが涙ながらにソウッテの袖をつかむ。


「ああ町長の館にいるあの小僧か。いいだろう、この大罪人を捕らえたら小僧を渡してやろう」

「ああっ、ありがとうございます……ごめんなさい、ごめんなさいね、ゼロさん……」


 そういうことか。わかりやすい悪党っぷりだな。ソウッテの顔色が前戦った時よりもどす黒くなっているから余計に悪者っぽさが出ている。


「仕方がない。いいぞ抵抗はしないからどこへでも連れて行けよ。ただし外套だけでもかけてくれないか」


 俺は無抵抗で男たちに従う。男たちは俺が無抵抗でいるため武器の振り下ろし先に困っているようだった。


「外套だな……って、いやぁ~だね~! そんな物、犯罪者には必要ないわぁ。裸のままで連行してやる!」

「おいおい本気かよ……」


 その時だった。板を挟んだ向こう側から女の子の声がした。


「きゃぁっ、なに、なんなのよあんたたち! ゼロ、助けてゼロっ!」

「ルシル! てめぇら、ルシルになにしやがった!」


 俺の慌てた様子を見て、ソウッテの顔が嫌な笑いで歪む。


「決まっているだろう、あっちの娘も同罪ぴぎゃらっ!」


 しゃべっている途中でソウッテの鼻に俺の頭突きが炸裂する。

 今度は嫌な笑いではなく折れた鼻がソウッテの顔を歪めることになった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] どんななろう小説でもそうですが、なぜ命を狙ってくる刺客を生きて帰すんでしょうか? 数人は殺したのに隊長格は生かして帰すことの圧倒的な不自然さの理由がサッパリ理解できません。 帰せば恨み…
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