堕ちた翼竜
ダエオドンが一度は立ち上がるが、遠くから見てもそれが最後のあがきだと思える程に弱っていた。
「大丈夫だ、もう襲ってくるような力は残っていまい。即死には至らなかった事は少し見直さなくてはならないだろうが……なっ!?」
突風が俺たちを煽ったかと思うと巨大な羽を広げた爬虫類が空からダエオドンを鋭い爪で捕まえて飛び上がる。
「ワイバーンか!」
「あれは厄介ね、人語は使える者もいるけど基本的に粗野で粗暴、本能のままに活動している生き物だから」
「それに飛ぶからな。空は手間がかかる」
「そうね、どうする?」
ダエオドンはもう抵抗する動きを見せない。暴れないという事はもう息絶えているのかもしれないが、ワイバーンにしてみれば好都合な訳だ。
「Sランク勇者補正、スキル発動! 超加速走駆っ!」
俺は剣を抜きながらワイバーンとの距離を一気に詰める。
だが相手は空へ飛ぼうとして既に二、三メートルは浮き上がっていた。
ダエオドンの巨体がある分すんなりとは飛び立てないようだが、それは俺にとって狙い目だったりもする。
「Sランクスキル、剣撃波! 併せてRランクスキル、雷光の槍!」
俺は覚醒剣グラディエイトを鞘から抜く時の抜刀技で神速の衝撃波を放ち、それと同時に雷撃の魔法を撃つ。
ワイバーンのつかんだ巨大猪が俺の剣撃で真っ二つに裂ける。持っている物体がばらけた事でワイバーンはバランスを失う。そこへ電撃で痺れて思うように羽を動かす事ができない。
「俺の獲物というわけではないが勝手にかっさらっていこうというその根性は見過ごせないな」
俺は墜落したワイバーンの長い首を踏みつけると威圧を使ってにらみを利かせる。
俺が放つ威圧は常時発動のスキルで別段意識しなくとも常に効果が現れるため使い方が難しかったりするのだが、こういうときには思い切り使えるスキルだ。
「お前たちワイバーンは力でねじ伏せないと話もできないらしいからな」
全身鱗に覆われているため表情は判らないが、棘が無数に生えた顔はあえぐように口を開いて何かを訴えようとしているようにも見える。
「俺に勝てない事を理解したなら二度まぶたを閉じろ」
俺が言うとワイバーンは目の瞬膜を二回閉じた。
「よしいいだろう。人語は使えるのだろうな」
もう一度ワイバーンは瞬きを二回する。
「逃げようと思うなよ、俺が足をどかしてすぐに飛び立とうとすればまた雷撃で撃ち落としてやるからな」
俺はゆっくりと足をどかすと、息苦しそうにしていたワイバーンが大きく深呼吸した。
ワイバーンは皮膜でできた大きな羽を閉じると太い足で立ち上がる。
ドラゴンのような腕はなく、腕の代わりに翼が生えているようなものだ。
それでもやはりドラゴンとは遠縁とはいえ種族としてのつながりはあるだけに、その力は絶大だったりもする。
「負けだ負け。儂の負けだ人間」
くぐもった低い声でワイバーンが降参した。