刺されたら刺し返す
岩の棘であれば俺の防御力を削れないはず。体力にはダメージを受けないとたかをくくつていたが、それも一本二本の話。ルシルをかばうように四つん這いになった俺の背中に容赦なく岩の棘が突き刺さる。
「とんだハリネズミの勇者だな!」
岩の上に立っているレイラが俺を嘲る。そう言われてしまうのも仕方がないのか。
俺は今、ルシルの回復を待っている状態だ。治癒魔法が早く効いて欲しい。
「なぜだ、重篤治癒の効きが遅い……」
「ゼロ、私は大丈夫。逃げて……」
俺の焦りを感じたのだろう。ルシルが自分の事よりも俺の事を気にしている。
「逃げるなら二人でだ。どうやらユキネたちは抜け出せたようだからな」
もうすでに遠くなってしまったグリコの姿を見る。ピポグリフのグリコに乗っているユキネとピカトリスもどうにか逃げおおせたろう。
だがレイラの言葉は辛辣だった。
「あんな輩には興味がないのでな、好きなだけ逃してやるさ。だが勇者お前は駄目だ。魔王を倒したというその名声、それを奪わなくては魔族の復活はありえんのだよ!」
レイラは俺に岩の棘を叩き込む。槍のように太いものもあれば針のような細いものもある。それが無数に俺の背中や腕に突き刺さった。
「ぐっ!」
背中越しにも判るレイラの高笑い。
「どうしたんだね勇者! 姉上を守りながらでは反撃もままならんか!」
「ゼロ、もういい、もういいよ……。ゼロだけでもこの場は。私ならきっとレイラも命を取るまではしないと思うから……」
「ルシル……」
腹に大穴を開けられてそれでも殺されないなんて本人も思っていないだろう。
「ね、ゼロ」
ルシルの痛みにこらえていた顔が無理矢理笑おうとした。
その目から涙がこぼれる。
「ルシル、すまない」
俺の言葉にルシルが小さくうなずく。
「いいよ、ゼロ。どうか無事に……」
「いや俺が謝っているのはお前の言う通りにしないという事だ!」
俺は降り注ぐ岩の棘の雨を振り向きざまに剣でなぎ払う。
剣圧に飛ばされて岩の棘が散らばって落ちた。
剣を右手に持ち左腕にはルシルを抱える。
「食らえっ、重爆斬!」
俺の剣撃が放たれる。
「とうとう頭に回る血が減ったと見える。どこに剣を放っているのだ勇者よ!」
自分に向けられたものではない事に気が付いたレイラは、引きつった笑いで気持ちを持ち上げようとした。
「どうかな、それは」
俺の放った剣撃が山肌をえぐる。大きな穴が開いて土砂となって流れていく。
そして崩れた山肌の上にはレイラの立つ岩があった。
「なっ、そんな!」
レイラごと岩が転がり落ちる。どうにかレイラはいくつもの岩を跳び越えながら流れに逆らっていく。
「岩の板壁!」
レイラが地面から岩でできた壁を構築してその上に立つ。
「これでひとまず……なっ!」
「安定した足場は別にお前だけの場所ではないという事だよ、義妹よ」
俺はできた岩の壁の上に立って剣をレイラの喉元に突きつけていた。