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複製元と封印先

 十年前、俺の親父が連れ帰った少女、それが妹のアリアだ。

 そのアリアが。


複製人間クローンだと……!?」

「そうよ」


 ピカトリスは平然と答える。

 アリアが複製人間クローンだと言うピカトリスの言葉は理解する事が難しい。

 ルシルが青ざめた顔をして俺たちを見ていた。


「いったいそれは……。この身体は、私の身体は複製人間クローンだと言うの!?」


 ルシルにとっては自分の事でもあり他人の事でもあるが、今、己の魂が封印されている器として存在しているからには聞き逃す事のできないものだったろう。


「いいえその身体はあなたのものよ、ルシル・ファー・エルフェウス」

「なっ!」


 ルシルがピカトリスの胸ぐらをつかむ。


「貴様っ! 我を愚弄するか!」


 ルシルはつい昔ながらの口調で詰め寄った。


「そのつもりはないのよ魔を統べる王」


 ピカトリスはなすがままになっている。ルシルは突き放すようにピカトリスを解放する。

 そのままピカトリスは尻餅をついて倒れた。


「アリアちゃんの本体、複製元は、魔王ルシルその人なのよ」


 俺にとって驚く内容をルシルは承知していたのか、それに対して衝撃を受けた感じはしない。


「何を言っているんだ。俺が倒した魔王は確かにアリアに似ていたかもしれない。だがあの魔王はもっと大人、というよりもっと」

「何よゼロ」


 ルシルが俺をにらんでいる。

 これは結構怖い。


「いやなんだ、もっとこう……」


 俺は手で魔王のボディーラインを表現してみた。

 背も高く、胸も大きいが腰はくびれていて余分な太さは感じられない。


「大人な感じだったよ、うん……いててて!」


 ルシルが俺の太ももをつねる。


「何すんだよ!」

「別に~。あの頃の私は素敵だったよね~?」

「う、何を言わせたいんだ」

「素直な感想よ。別に期待していないわ」


 俺はあざになりそうな太ももの痛みをこらえていた。


「それで」


 ルシルはピカトリスの前に立って腕を組みながら問いかける。


「私の前の身体と今のアリアの身体で何が関係するんだって?」


 流石は魔王。威圧感は半端じゃない。

 背後に魔力の放出が形として見えるかのようだ。


「おおよそは見当が付いているんでしょうけど、その通りよ。アリアちゃんはルシル、あんたの身体を複製させたのよ」

「ほう」


 ルシルはピカトリスの脇腹を力一杯蹴飛ばした。


「ぐっふ!」


 ピカトリスがうずくまるが加害者側のルシルは気にもとめない様子だ。


「なるほどね、道理でなじみがいい訳だわ」

「なじみ?」


 俺はルシルの発言にオウム返しする。


「封印されたとはいえ普通は魂が他の肉体に宿るにはかなりの負担がかかるのよ。元々自分の肉体だったら、そこの喰らう者(イーター)みたいにすんなり入っていけるのでしょうけど」


 ルシルは喰らう者(イーター)であるユキネを指さす。


「言われてみれば……」


 ユキネもなんとなくだが納得したような表情をしていた。


「というと、魔王の頃のルシルの身体から複製する物を取って、それを複製人間クローンにしたのがアリアだと……。そしてルシルの複製した身体に、また元のルシルの魂が封印されたという事か」

「ゼロ君その通りよ。これは魔王討伐の前から周到に計画されていた事なのよ」


 だとすると魔王討伐とはいったい何だったんだ。ムサボール王国はその計画に乗ってしまったという事なのか。

 俺は遠大な計画に薄ら寒さを感じた。


「それだから勇者にやられるのだよ!」


 山の上の方から声がした。


「誰だっ!」


 俺が声の方を見上げると、山を少し登ったところにある大きな岩の上に一人の少女が立っていた。

 こいつもまた、ルシルに似た姿だがどちらかというと魔王の頃のルシルに近い、少女と言っても大人びた感じのする少女だった。

 ただ違うのは、きつい目元と酷薄な笑みを浮かべる口だ。


「不甲斐ないな、姉上」


 岩の上に立つ少女はそう言い放った。

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