分裂と生成
俺たちは灰となってしまった人造人間の少女サラサの墓の前にいる。
森を抜けてヘイテイ山を少し登った見晴らしのいい場所だ。
「サラサ、お前を大人にしてあげられなかったわね……」
ピカトリスがサラサの墓に話しかける。
墓とはいっても石で積み上げた山に木の杭を立てたものだ。
「一つ聴いていいか」
俺は墓の前にたたずむピカトリスに声をかける。
「どうしてサラサは、人造人間はアリアに生き写しなんだ」
「そうね……」
ピカトリスは眼下に見える森と青く澄んだ空を見ていた。
「あれは十年前かしら。ゼロ君は覚えているかしらあの時の事を」
十年前といえば俺が六歳の頃だ。
「あの時ゼロ君のお父様が連れてきた少女の事」
「ああ。今でもはっきりと覚えているよ」
俺の親父も勇者だった。
親父は旅から旅を続ける勇者で家に帰ることは一年に一度あれば多いくらい。
そんな親父が十年前だ、道で拾ったと言ってまだよちよち歩きの女の子を連れて帰ってきた。
冒険仲間と称するフードの男と一緒に。
「あの時は酷かったなあ」
「そうね、その頃はゼロ君のお母様もいらっしゃったわね。やれ誘拐だやれ隠し子だと、見ていて楽しかったわ」
「えっ、とするとあの時いたフードを被った外套の奴は……」
「そうよ、あたしよ」
「ちょっと待て、魔王討伐軍にいた時にお前と別れたのは確か五年前の事だろう!? 十年前ってお前はその頃から姿が変わっていないとでも言うのか。いやそれどころかよく考えてみれば五年前とあまり変わっていない……。俺はあの頃王国の少年兵だったというのに」
「あの頃のゼロ君はかわいかったわ。だからといって今がかわいくないって訳じゃないんだけどね」
いったいこいつは何歳だというのだ。ユキネの言う百年前の錬金術師の話とかも考えると、ピカトリスは成長と言うよりは時が止まっているようにも思える。それが本人だったとしたら、だが。
「まあそれはともかく、あの時に連れてきた女の子がアリアちゃん。ゼロ君の妹よね」
そうだ。十年前親父が連れてきた女の子、今日からお前の妹だぞ、と言っていた親父の言葉が忘れられない。
「だからなんだ。アリアは俺の妹でそれ以上でも以下でもないぞ」
「別にそんな事は言わないわ。でもね、アリアちゃんは特別だったの」
「特別だって?」
「そうよ、アリアちゃんは生まれていないのよ」
「生まれていない、だって……!?」
こいつの言う事は毎度毎度遠回しで面倒くさい。
「どういうことだそれは」
俺はピカトリスに詰め寄るが奴は動じる様子もない。
「複製人間なのよ、アリアちゃんは」
複製人間だって……!?
「そうよ。アリアちゃんは複製人間。父親も母親も存在しない、造られた存在」
「じゃあ待て、だとしたらアリアは、人造人間なのか!? だがアリアは今も生きているし身体も元気だぞ」
魔王をその身に宿しているけど。
「うん、厳密には違うわね。人造人間はあくまで素材から錬成された人工生命体。複製人間は元となる個体の細胞を複製させて造るのよ」
あまりの事に俺は頭の中が真っ白になった。